東京電力HD(9501)の企業分析|柏崎刈羽6号機再稼働と福島廃炉9000億円、電力最大手が抱える光と影

東京電力ホールディングス(9501)は、首都圏の電力供給を担う日本最大の電力会社です。2026年4月に柏崎刈羽原発6号機が営業運転を再開し、燃料費削減による収益改善が期待される一方、福島第一原発の廃炉費用として約1兆円の特別損失を計上し、2026年3月期は最終赤字4,542億円となりました。
2026年3月期は売上高6兆3,286億円(前期比−7.1%)、営業利益3,377億円(同+44.0%)と基礎収益力は改善しましたが、デブリ取り出し費用9,138億円の計上により大幅な最終赤字となっています。
この記事では、東京電力HDの5つの事業セグメント、柏崎刈羽原発再稼働の影響、福島廃炉費用の構造、投資判断のポイントを、個人投資家の視点から解説します。
この記事の内容(目次)
会社概要 — 首都圏約2,900万件を支える電力インフラの巨人
東京電力ホールディングスは、2016年4月の持株会社化により誕生しました。福島第一原発事故(2011年)後、実質国有化を経て、発電・送配電・小売を分社化した日本最大の電力グループです。
項目 | 内容 |
|---|---|
会社名 | 東京電力ホールディングス株式会社 |
証券コード | 9501(東証プライム) |
代表執行役社長 | 小早川 智明 |
従業員数 | 約37,939名(連結、2026年3月末) |
本社 | 東京都千代田区内幸町一丁目1番3号 |
時価総額 | 約9,197億円(2026年9月1日時点) |
株価 | 572円(2026年9月1日時点) |
出典:東京電力ホールディングス 会社情報、KabuGraph株価データ(2026年9月1日時点)
5つのセグメントの売上構成(2026年3月期)
セグメント別売上構成比(2026年3月期)
5つの事業を理解する
東京電力グループは「ホールディングス」「フュエル&パワー」「パワーグリッド」「エナジーパートナー」「リニューアブルパワー」の5つのセグメントで構成されています。子会社63社、関連会社74社(2026年3月時点)のグループ企業が各領域を担っています。
エナジーパートナー — 売上の6割を占める小売事業
東京電力エナジーパートナーは、首都圏を中心に家庭・法人向けの電力・ガス小売を手がけます。2026年3月期はセグメント売上高4兆9,896億円(うち外部顧客への売上高3兆8,035億円、連結売上の60.1%)、セグメント経常損益は2,549億円(燃料費調整の期ずれ影響を除くと2,319億円)でグループ最大の収益源です。電力自由化後も首都圏での圧倒的なシェアを維持していますが、新電力との競争は続いています。
パワーグリッド — 首都圏の送配電網を独占

東京電力パワーグリッドは、首都圏約2,900万件への送配電を担う規制事業です。2026年3月期はセグメント売上高2兆2,943億円(うち外部顧客への売上高1兆7,467億円、連結売上の27.6%)、セグメント経常損益は817億円。託送料収入は安定的で、電力自由化の影響を受けにくい収益基盤です。データセンター需要の急増に伴い、送電網の増強投資も進んでいます。
フュエル&パワー — 発電燃料の調達と火力発電
東京電力フュエル&パワーは、LNG・石炭などの燃料調達と火力発電を担います。外部売上は37億円と小さいものの、セグメント経常損益は833億円(期ずれ影響を除くと783億円)(2026年3月期)。中部電力との合弁会社JERAを通じた燃料調達・発電事業が中核で、燃料費調整制度の「期ずれ影響」によって利益が変動しやすい特徴があります。
リニューアブルパワー — 高利益率の再生可能エネルギー

東京電力リニューアブルパワーは、水力・風力・太陽光発電を手がけます。経常利益率21.3%とグループ内で最も高い収益性を持ちますが、2026年3月期は卸電力販売の減少により売上高1,892億円(前期比▲10.8%)、セグメント経常損益403億円(同▲24.8%)と減収減益でした。銚子沖洋上風力発電所の運営のほか、国内最大級の水力発電設備を保有しています。
柏崎刈羽原子力発電所 — 6号機再稼働の意義

柏崎刈羽原発6号機は2026年4月16日に営業運転を再開しました。出力約135.6万kWのABWR型炉で、福島原発事故後に全号機が停止して以来、約15年ぶりの東京電力の原発再稼働です。原子力規制委員会の安全審査合格、新潟県知事の同意を経て実現しました。
一方、7号機は特定重大事故等対処施設(テロ対策施設)の設置期限を2025年10月に迎えており、期限までに完成していないため運転できない状態が続いています。工事完了予定は2029年8月で、7号機の再稼働は数年先になります。また6号機についても、特重設の設置期限が2031年4月であるのに対し工事完了予定は2031年9月と後ろ倒しになっており、会社資料では特重設がないために運転が認められない期間が生じる見通しが示されています。
出典:資源エネルギー庁「柏崎刈羽原子力発電所6号機が再稼働」、日本経済新聞(2026年2月)
セグメント別経常損益推移(2025年3月期 → 2026年3月期)
業績推移と財務分析
通期業績推移(売上高・営業利益)
通期業績推移(売上高・営業利益・営業利益率)
2023年3月期はロシア・ウクライナ紛争に伴う燃料高騰で売上が急増する一方、電力料金への転嫁が追いつかず営業赤字2,290億円を計上。2024年3月期以降は燃料費調整の「期ずれ好転」もあり黒字に回復し、2026年3月期は営業利益3,377億円(前期比+44%)と大幅増益を達成しています。
特別損失と最終損益
営業利益・経常利益は改善傾向にありますが、最終損益は福島廃炉費用に大きく左右されます。2026年3月期は以下の特別損失を計上しました。
項目 | 金額(2026/3期) |
|---|---|
デブリ取り出し準備費用 | 9,138億円 |
原子力損害賠償費 | 827億円 |
最終損益 | −4,542億円(赤字) |
特別損失は合計9,966億円(前期1,430億円)に達しました。2025年7月23日に開催された原子力損害賠償・廃炉等支援機構の「燃料デブリ取り出し工法評価小委員会」で、「横/上アクセス連携」を前提とした準備作業のあり方が示されたことを踏まえ、新たに見込まれる取り出し準備の作業費用を計上したものです。
主要財務指標(2026年3月期)
指標 | 数値 |
|---|---|
売上高 | 6兆3,286億円 |
営業利益 | 3,377億円 |
経常利益 | 4,173億円 |
当期純利益 | −4,542億円 |
総資産 | 15兆5,756億円 |
純資産 | 3兆4,183億円 |
自己資本比率 | 21.8%(前期25.1%) |
配当 | 無配(2011年以降継続) |
投資家が注目すべきポイント
強み・成長ドライバー
1. 原発再稼働による構造的なコスト改善
柏崎刈羽6号機の営業運転再開は、東京電力にとって15年ぶりの原発稼働です。原子力の燃料費はLNG火力の10分の1以下であり、1基の稼働でも年間数百億円規模の燃料費削減が見込まれます。加えて、CO2排出量の削減にも貢献し、カーボンプライシングの導入が進む中での競争力強化につながります。
ただし再稼働後最初の四半期となる2026年4-6月期は、燃料・卸電力市場価格の高騰に伴う電気調達費用の増加により営業損益△342億円(前年同期+646億円)、経常利益114億円(同1,012億円)と大幅な減益・営業赤字となりました。原発再稼働のコスト改善効果は、燃料市況の変動に容易に打ち消される規模であることに留意が必要です。
2. データセンター需要の急増による電力需要拡大
AI・クラウドの普及に伴い、首都圏のデータセンター建設が急増しています。電力需要の増加は東京電力にとって追い風であり、送配電網の増強投資を通じた中長期的な収益拡大が期待されます。
3. 再生可能エネルギーの利益率が高い
リニューアブルパワー事業は経常利益率21.3%と、グループ内で最も高い収益性を誇ります。ただし2026年3月期は卸電力販売の減少により減収減益となっており、洋上風力・水力発電の拡大による収益基盤の再構築が今後の課題です。
注意すべきリスク
1. 福島廃炉の負担は30〜40年続く
燃料デブリの取り出しは、2号機で試験的取り出しの2回目までが完了し、1〜3号機で準備作業を実施している段階です。水抜き作業は2026年度から実施予定で、本格的な取り出しには長期間を要します。廃炉・賠償・除染の総費用は政府試算で約22兆円とされていますが、さらに膨らむ可能性もあります。毎年数千億円規模の特別損失が発生し続ける構造は、純利益を圧迫し続けます。
2. 実質国有化と株主還元の制約
原子力損害賠償・廃炉等支援機構が議決権の過半を保有する実質国有化の状態が続いています。賠償・廃炉費用の返済が優先されるため、復配の見通しは立っておらず、キャピタルゲイン(値上がり益)のみの投資判断が求められます。
3. 燃料価格変動リスク
LNG・石炭価格の変動は電力料金への転嫁にタイムラグが生じるため、短期的に収益を大きく左右します。中東情勢の不安定化が続く限り、業績のブレは避けられません。2027年3月期の業績予想が「未定」とされている背景もここにあります。
まとめ
東京電力HDは、柏崎刈羽6号機の再稼働でコスト構造の改善余地が生まれた一方、再稼働後最初の四半期(2026年4-6月期)は燃料調達費の増加で営業赤字となるなど収益は燃料市況に大きく左右され、さらに福島廃炉という「もう一つの現実」が常に財務を圧迫する構造にあります。
営業利益は過去10年で最高水準の3,377億円(2026/3期)。ただし2027年3月期1Qは燃料調達費の増加で営業損益△342億円と赤字
福島廃炉費用は今後30〜40年続く見込みで、最終黒字化のハードルは高い
無配は当面継続の見通しで、値上がり益狙いの投資スタンスが前提
データセンター需要・再エネ拡大は中長期の追い風だが、燃料価格リスクは残る
「原発再稼働」と「福島廃炉」という二つの大テーマが交錯する東京電力は、電力セクターの中でも特異なリスク・リターン構造を持つ銘柄です。投資判断の際は、営業利益の改善トレンドだけでなく、特別損失の推移にも注目する必要があります。
東京電力ホールディングス
日本最大級の電力企業グループ。首都圏で電力・ガス供給を手がける「東京電力エナジーパートナー」、燃料・火力事業の「東京電力フュエル&パワー」、再生可能エネルギー発電の「東京電力リニューアブルパワー」、送電網運用の「東京電力パワーグリッド」を展…










