Kudan(4425)の企業分析|空間知覚SLAM技術とKudan PRISMで挑むフィジカルAI市場

Kudan(4425)は、SLAM(自己位置推定・環境地図作成)を中核とする空間知覚技術の専業企業です。2011年に英国ブリストルで創業し、ロボット・ドローン・自動運転車など「すべての機械に眼を」をビジョンに掲げ、デジタルツインとロボティクスの両領域で事業を展開しています。
2026年3月期は売上高11.9億円(前期比+131%)と急成長し、業績予想を2度上方修正して上振れ着地しました。フィジカルAI需要の高まりと、NEDO大型プロジェクトへの採択を背景に、赤字幅も縮小傾向にあります。
この記事では、Kudanの空間知覚技術の仕組み、事業構造、業績推移、NEDOプロジェクト、競合環境、投資判断のポイントを、個人投資家の視点からわかりやすく解説します。
この記事の内容(目次)
会社概要 — 英国発・SLAM技術で「すべての機械に眼を」
Kudanは、項大雨(KO DAIU)氏が2011年に英国ブリストルで創業したディープテック企業です。コンピュータビジョンの研究拠点であるブリストル大学に近い環境で、SLAM(Simultaneous Localization and Mapping)アルゴリズムの開発に特化してきました。2014年に日本法人を設立し、2018年に東証マザーズ(現グロース市場)に上場しています。
項目 | 内容 |
|---|---|
会社名 | Kudan株式会社(Kudan Inc.) |
証券コード | 4425(東証グロース) |
創業 | 2011年(英国ブリストル)、日本法人設立 2014年11月 |
上場 | 2018年12月(東証マザーズ)→ 2022年4月 東証グロース |
代表取締役CEO | 項 大雨(KO DAIU) |
本社所在地 | 東京都渋谷区神南一丁目23番14号 |
従業員数 | 43名(連結、2026年9月時点) |
事業内容 | 空間知覚(SLAM)技術の研究開発・ライセンス・ソリューション提供 |
グループ会社 | Kudan Limited(英国)、Kudan USA LLC(米国)、Kudan Vision株式会社(日本)、Kudan Germany(独) |
同社のビジョンは「Eyes for All Machines(すべての機械に眼を)」。人間が視覚で空間を認識するように、ロボットや自律走行車が現実世界を理解するための「空間知覚」ソフトウェアを提供しています。NVIDIA・Intel・Qualcommといったグローバル半導体大手とのパートナーシップを持ち、英国・ドイツ・米国に拠点を構えるグローバル体制を築いています。
事業構造を理解する — デジタルツインとロボティクスの2本柱
Kudanの事業は、空間知覚技術を基盤にした「デジタルツイン」と「ロボティクス」の2つの応用領域で構成されています。加えて、コアとなるソフトウェアアルゴリズム単体のライセンスも継続しています。
コア技術 — 空間知覚ソフトウェア
Kudanの技術的な強みは5つに整理できます。
アルゴリズムの独自性 — 学術研究ベースではなく商用利用に最適化した独自SLAM
高性能・柔軟な処理 — エッジデバイスからクラウドまで、演算環境を問わず動作
多様なセンサー対応 — LiDAR・カメラ(単眼/ステレオ)・IMU・ToFなどを組み合わせ可能
部分機能の切り出し — 位置推定だけ、地図作成だけといったモジュール単位での提供が可能
ハードウェア非依存 — 特定のセンサーやプロセッサに縛られず、顧客の既存装置にも組み込める

デジタルツイン事業 — Kudan PRISMで現場をまるごと3D化
デジタルツイン事業は、物理空間をフォトリアルな3Dデータに変換し、設備管理・点検業務をDX化する領域です。2025年8月に正式リリースした「Kudan PRISM」が主力プロダクトとなっています。
Kudan PRISM — 3D Gaussian Splatting技術と空間知覚技術を融合した次世代デジタルツインプラットフォーム。ハンドヘルドデバイス・ドローン・ロボットで広域を短時間にスキャンし、設備の属性・点検履歴・図面を3D空間上で一元管理
モバイル3Dスキャナー — 3D Gaussian Splatting対応のハンドヘルドスキャナー。ポイントクラウドに比べ軽量で滑らかな描画を実現
車載型MMS(モバイルマッピングシステム) — NTTインフラネットとの連携で都市部の高精度3Dマッピングを提供

ロボティクス事業 — 自律走行ロボットの「頭脳」を提供
ロボティクス事業では、ロボットが現実空間を自律的に移動するためのナビゲーションソフトウェアを提供しています。
自律ナビゲーション・ソフトウェアパッケージ — 配送ロボット、産業用AGV、清掃ロボット、放送カメラロボットなど多様な用途向け。2026年3月期は商用化実績が前年比2倍の8件に到達
AMR開発キット — AMR(自律移動ロボット)をゼロから開発する顧客向けのリファレンスプラットフォーム
四足歩行ロボット・警備ロボット — 2027年3月期に向けたパイプラインとして開発が進行中

ビジネスモデル — SWライセンス+HWパッケージの二層構造
Kudanの収益は大きく分けてソフトウェア(SW)とハードウェアパッケージ(HW)の二層です。
SW — SLAMアルゴリズムのライセンス、Kudan PRISMのサブスクリプション、受託開発。高粗利が特徴
HW — 3Dスキャナー、センサー、コンピュータなどの関連機器パッケージ。SWの導入を促す「呼び水」として機能するが、粗利は低い
2027年3月期は「高粗利SWへの集中」を新方針として掲げ、HW売上を意図的に縮小しつつ、SW売上を前期比+3.6億円伸ばす計画です。売上高は減収となりますが、営業損失は5.8億円→3.4億円に大幅縮小する見通しです。
業績推移と財務分析
Kudanの業績は、ディープテック企業特有の大きな波を経てきました。ここでは通期業績の推移と財務の健全性を確認します。
通期業績推移
通期業績推移(売上高・営業利益)
Kudanの売上高は2019年3月期の3.7億円から2026年3月期の11.9億円へと成長していますが、道のりは平坦ではありません。
2019/3期 — 上場直後で売上高3.7億円・営業利益1.2億円と唯一の通期黒字。SLAMライセンスの初期需要を取り込んだ時期
2021/3期 — コロナ禍と顧客の投資凍結で売上高1.2億円まで落ち込み、営業損失4.5億円。研究開発に注力した期間
2026/3期 — フィジカルAI需要の追い風を受け、売上高は前期比+131%の11.9億円と過去最高を大幅更新。業績予想を2度上方修正し、修正後予想も上回った
2027/3期(予想) — 売上高10.3億円(前期比−14%)と減収予想。HW売上を絞りSWに集中することで、営業損失は3.4億円に縮小見込み
主要財務指標
決算期 | 売上高 | 営業利益 | 経常利益 | 純利益 | EPS |
|---|---|---|---|---|---|
2022/3 | 271百万円 | −433百万円 | −681百万円 | −2,237百万円 | −283.74円 |
2023/3 | 332百万円 | −598百万円 | −394百万円 | −413百万円 | −49.30円 |
2024/3 | 490百万円 | −527百万円 | −50百万円 | −69百万円 | −7.88円 |
2025/3 | 517百万円 | −800百万円 | −743百万円 | −801百万円 | −72.85円 |
2026/3 | 1,196百万円 | −585百万円 | −174百万円 | −188百万円 | −16.68円 |
2027/3(予) | 1,030百万円 | −340百万円 | — | — | — |
財務の安全性
赤字が続く企業では財務基盤の確認が特に重要です。
指標 | 2026/3末 |
|---|---|
総資産 | 2,977百万円 |
純資産 | 2,642百万円 |
自己資本比率 | 88.2% |
BPS | 232.30円 |
ROE | −7.1% |
自己資本比率88.2%、現預金約19.8億円を保有しており、ブリッジレポートでは「約6年分の運転資金を確保」と評されています。赤字局面でも追加の資金調達なく研究開発を継続できる余力は、ディープテック企業としては非常に堅固な水準です。
直近四半期の動向(2027/3 Q1)
2027年3月期 第1四半期(2026年4〜6月)は以下の通りです。
売上高:112百万円(前年同期168百万円から−33%)
営業損失:148百万円(前年同期245百万円から40%改善)
純損失:71百万円(前年同期230百万円から69%改善)
売上高は減少していますが、これは前期のHW偏重から脱却する過渡期のためです。営業損失・純損失ともに前年同期比で大幅に縮小しており、収益性は改善方向にあります。通期予想(営業損失340百万円)に対する進捗率は43.5%で、計画線上にあります。
投資家が注目すべきポイント
成長ドライバー
フィジカルAI市場の急拡大 — 自律走行ロボット・デジタルツインの市場は、労働力不足・インフラ老朽化・物流効率化の需要を背景に急成長しています。SLAM技術はこれらの基盤となる要素技術であり、Kudanは「水平展開」が可能なプラットフォームポジションにいます
Kudan PRISMのSaaS化 — 2025年8月にリリースしたKudan PRISMが設備管理のストック型収益源に育てば、売上の安定性が大幅に向上します。製造・物流・インフラなど現場産業のDX需要を取り込む潜在市場は大きい
NEDO大型プロジェクトの波及効果 — 3年間のプロジェクトで構築した技術標準が、建設以外の産業ロボット全般に横展開される可能性があります。国のプロジェクトリーダーという実績は、民間大型案件の営業上の信用になります
高粗利SW集中による黒字化接近 — 2027年3月期の営業損失3.4億円は、売上高10.3億円に対して3割程度。SW売上の成長が続けば、あと数年で営業黒字化が視野に入ります
リスク要因
赤字継続と黒字化時期の不確実性 — 設立以来、通期営業黒字は2019年3月期の1期のみ。R&D投資が先行する構造上、市場環境の変化次第で黒字化がさらに後ろ倒しになるリスクがあります
大型案件への依存 — 年間売上12億円規模の企業にとって、1件の大型案件の納期変動が四半期業績を大きく左右します。2021年3月期(コロナ禍)に売上が1.2億円まで落ちた実績は、この脆弱性を示しています
高PBRと希薄な流動性 — PBR 6.2倍(2026年9月17日時点)は成長期待を大きく織り込んだ水準です。時価総額164億円・グロース市場の小型株であり、流動性が低く、機関投資家の参入が限られるため、ボラティリティが高い
技術陳腐化リスク — SLAM技術自体はオープンソースの実装(ORB-SLAM、LIO-SAM等)も存在し、NVIDIA・Intel・Qualcommといった大手が同領域を強化する動きもあります。技術優位が持続するかは注視が必要です
無配当 — 創業以来、配当を実施していません。成長投資を優先する方針のため、インカムゲインを求める投資家には不向きです
競合環境
SLAM技術の競合環境は、以下の3つのレイヤーに分かれます。
レイヤー | 主な競合 | 特徴 |
|---|---|---|
SLAM専業 | SLAMcore(英国)、NavVis(独) | SLAMcoreは英Imperial College London発のSLAMスタートアップ。NavVisは産業向け3Dマッピングに強み。同領域ではNianticが6D.ai(Oxford大発)を2020年に買収するなど、M&Aによる集約が進む |
半導体大手 | NVIDIA、Intel、Qualcomm | 自社チップ向けのSLAM SDKを提供。ただしKudanはこれら大手の「パートナー」でもある |
OSS | ORB-SLAM、LIO-SAM、Cartographer | 学術研究ベース。商用利用にはカスタマイズとサポートが必要 |
デジタルツイン | GeoSLAM(英国)、Leica(スイス) | 3Dスキャナー+ソフトの統合提供。ハードウェア一体型が中心 |
Kudanのポジションは「SLAM専業としてハードウェアに依存しないソフトウェアプラットフォーム」であり、NVIDIA・Qualcommとは競合ではなくパートナー関係にあります。ブリッジレポートでも指摘されているように、SLAM専業企業が相次いで買収される中で独立を維持している点は希少性がありますが、それは裏を返せば「買収されるほどの市場評価を得ていない」可能性でもあります。
株価指標(2026年9月17日時点)
指標 | 値 |
|---|---|
株価 | 1,445円 |
時価総額 | 約164億円 |
PER | — (赤字のため算出不能) |
PBR | 6.22倍 |
EPS(実績) | −16.68円 |
配当利回り | 0%(無配) |
ROE | −7.1% |
赤字企業のためPERは算出できません。評価の目安はPSR(株価売上高倍率)で、2026年3月期の売上高11.9億円に対し時価総額164億円でPSR約13.7倍となります。2027年3月期予想ベース(10.3億円)ではPSR約15.9倍です。ディープテック企業として高い期待を織り込んでいる水準であり、業績がコケた場合のダウンサイドは大きいと認識しておくべきです。
まとめ
Kudanは、SLAM技術を軸にフィジカルAI時代の空間知覚プラットフォームを構築する数少ないディープテック企業です。
強み — 独自のSLAMアルゴリズム、NVIDIA・Intel・Qualcommとのパートナーシップ、NEDO大型プロジェクトのリーダー実績、自己資本比率88%超の堅固な財務
課題 — 通期営業黒字は上場以来1期のみ、大型案件依存による業績の振れ、PBR 6.2倍の高バリュエーション、SLAM技術の陳腐化リスク
注目ポイント — 2027年3月期の「高粗利SW集中」が予定通り進むか。営業損失3.4億円→黒字への道筋が見えるかどうかが、株価の方向性を決める最大の変数
「フィジカルAI」というテーマに張りたい投資家にとって、Kudanは日本市場では数少ない選択肢です。ただし、赤字継続中の小型グロース株であり、投資判断にはSW売上の成長率・四半期ごとの損失縮小ペース・Kudan PRISMの導入実績を丁寧にモニタリングすることが不可欠です。
Kudan
Kudanは、機械が現実空間を認識・理解する『空間知覚』技術を基盤とする企業です。SLAM・自己位置推定・3次元認識・ロボットナビゲーション等を開発。デジタルツインとロボティクスの両領域に応用し、フィジカルAIの実現を支援。設備点検・管理向…








