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JPX・日本取引所グループ(8697)の企業分析|営業利益率58%の市場インフラ独占、純利益791億円で過去最高更新

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日本取引所グループ(JPX、8697)は、東京証券取引所・大阪取引所・日本証券クリアリング機構を運営する、日本の資本市場インフラの中核企業です。

2026年3月期は営業収益1,987億円(前期比+22.5%)、純利益791億円(同+29.5%)で過去最高益を更新しました。東証の1日平均売買代金(株券等・立会内外)が2025年度に7.52兆円と前年度比31.9%増加する取引活況が続く中、2027年3月期は純利益985億円(同+24%)と大幅な増益を見込んでいます。

会社概要 — 日本の資本市場インフラを独占的に運営

JPXは2013年に東京証券取引所グループと大阪証券取引所が経営統合して誕生しました。日本国内の株式取引の約9割を占める東証と、日経225先物などデリバティブ取引を担う大阪取引所を一体運営し、清算・決済まで含めた「市場の垂直統合モデル」を構築しています。

項目

内容

会社名

株式会社日本取引所グループ(JPX)

証券コード

8697(東証プライム)

グループCEO

山道裕己(2026年8月時点)

従業員数

約1,193名(連結、2026年3月時点)

本社

東京都中央区日本橋兜町2-1

主要事業

現物市場(東証)、デリバティブ市場(大阪取引所)、清算決済(JSCC)、情報サービス

営利企業と公共インフラの二面性 — JPXは買収されうるのか

JPXは東証プライムに上場する営利企業ですが、その事業は金融商品取引法(金商法)の免許事業であり、株主構成から日々の運営まで法律の枠がはめられています。「取引所株を買う」ことの意味は、この二面性を理解しないとつかめません。

免許事業であり、当局の監督下にある

金商法第80条第1項は「金融商品市場は、認可金融商品取引業協会を除き、内閣総理大臣の免許を受けた者でなければ、開設してはならない」と定めています。免許を持つのは子会社の東京証券取引所・大阪取引所で、JPXはそれらを傘下に置く「金融商品取引所持株会社」として第106条の10の認可を受けた会社です。取引所は定款・業務規程の変更にも内閣総理大臣の認可が必要(第149条第1項)で、市場全体に有害と認められる場合の業務停止命令は閣議決定を要します(第152条第1項第2号)。JPXが自社株を東証に上場していること自体も、第124条第1項により都度の承認事項です。

有価証券報告書はこの構造をこう書いています——「これらの規制は、必ずしも当社の株主を保護することを目的とはしていない」。取引所の規制は投資者全体と市場の公正のためにあり、JPXの株主の利益はその次に来る、という位置づけです。

議決権20%規制 — 「買われない」ように設計されている

買収可能性を左右するのが議決権の保有制限です。金商法第106条の14第1項は「何人も、金融商品取引所持株会社の総株主の議決権の保有基準割合以上の数の対象議決権を取得し、又は保有してはならない」と定めます。保有基準割合は第103条の2第1項で原則20%、経営に重要な影響を与えると推測される一定の事実がある場合は15%。認可を取れば超えられる仕組みではなく、端的な禁止規定で、違反には第200条第16号により1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金が科されます。共同保有者や支配関係にある会社の分は合算されるため、名義を分けても回避できません(出典:金融商品取引法(e-Gov法令検索))。

例外は限られています。第106条の14第1項ただし書が適用を外すのは「認可金融商品取引業協会、金融商品取引所又は商品取引所」で、ここでいう「金融商品取引所」は第80条第1項の免許を受けた国内の取引所を指します。海外の取引所は法律上「外国金融商品取引所」という別概念なので、このただし書には入りません。もう一つの例外である第106条の17は「地方公共団体等」が認可を受けて50%以下まで保有できる規定ですが、その範囲は政令で限定列挙されており、外国政府やソブリンウェルスファンドは対象外です。

実際の株主構成もこの枠内に収まっています。2026年3月末の筆頭株主は日本マスタートラスト信託銀行(信託口)の17.04%ですが、これは多数の年金・投資信託の名義を集約した信託口で、信託財産として保有する株式の議決権は内閣府令により規制対象の「対象議決権」から除かれます。大量保有報告書ベースで5%を超える単独の株主は野村アセットマネジメント(5.41%)のみで、実質ベースで15%に近づく株主は存在しません

自主規制業務が別法人に切り出されている理由

上場審査や上場廃止の判断、取引参加者の法令遵守状況の調査といった自主規制業務は、東証・大阪取引所からの委託を受けて日本取引所自主規制法人(JPX-R)が担っています。分離の理由をJPX自身がこう説明しています——「自主規制機能と株式会社としての営利性との間に生じうる利益相反を適切に管理するため」(出典:JPX「自主規制業務の適正な実施を確保するための体制の整備に係る方針」2018年4月1日制定)。

上場会社は取引所にとって上場料を払う顧客でもあります。営利会社が審査と処分を兼ねれば、収益のために審査を甘くする誘因が生じかねません。そこで金商法は自主規制法人について「営利の目的をもつて業務を行つてはならない」(第102条の21)と定め、さらに理事の過半数を委託元と関係のない外部理事とし、理事長も外部理事から選ぶことを求めています(第102条の23第3項・第6項)。JPXの高収益は、この審査部門を切り離したうえで成立しているものです。

公共性が問われた瞬間 — 2020年10月の全銘柄終日売買停止

この二面性が最も鋭く表れたのが2020年10月1日のシステム障害です。売買システムarrowheadの共有ディスク装置の故障を起点に別系統への自動切替えが働かず、東証の全銘柄が寄り付きから終日、売買停止となりました。金融庁は同年11月30日、東証に対し金商法第153条前段、JPXに対し第106条の28第1項に基づく業務改善命令を発出しています。処分理由は「平成30年10月のシステム障害の発生を契機に各種の対応策を講じてきたにもかかわらず、再びシステム障害が発生し…全ての取引が停止に至ったことは、金融商品取引所に対する投資者等の信頼を著しく損なうものであると認められる」(出典:金融庁「株式会社東京証券取引所及び株式会社日本取引所グループに対する行政処分について」2020年11月30日)。

命令は再発防止策の実施に加えて「責任の所在の明確化」を求め、東証社長(JPXグループCo-COO兼務)の宮原幸一郎氏が同日付で辞任、グループCEOの清田瞭氏は月額報酬50%減額4か月となりました。民間企業の障害でありながら経営責任の取り方まで行政処分の対象になる——これが市場インフラを預かる会社の立場です。投資家にとっては、システム障害が一般企業と違って直接に行政処分と経営陣の進退に結びつくリスク要因であることを意味します。

業績推移と成長ドライバー

営業収益・営業利益の推移(2017年3月期〜2027年3月期予想)

出典:JPX決算短信各期よりKabuGraph作成。2027/3は上方修正後の会社予想(営業利益1,455億円)。期初予想(2026年4月28日)は営業収益2,050億円・営業利益1,150億円と減益見通しだったが、7月28日の第1四半期決算で上方修正

何で稼いでいるのか — 営業収益の6区分

JPXは有価証券報告書で「金融商品取引所事業の単一セグメント」としており、事業セグメント別の売上・利益は開示されていません。取引所という単一のインフラ事業だからです。代わりに開示されるのが営業収益の内訳で、以下は会社が過年度も組み替えて揃えた6区分の推移です。

営業収益の内訳の推移(2022年3月期〜2026年3月期)

出典:JPX「2025年度 決算説明資料」(2026年4月28日)よりKabuGraph作成。2025年度より「システム関連収益」を独立させた6区分に変更され、過年度も組み替え済み

2026年3月期の内訳は取引関連収益774億円(構成比39.0%)、清算関連収益542億円(27.3%)、情報関連収益337億円、上場関連収益187億円、システム関連収益138億円。取引量に連動する変動収益(取引関連+清算関連)が66%を占め、売買代金依存の高さがここに表れています。目を引く清算関連収益の急増(344億円→542億円、+57.5%)は金利スワップ取引の担保管理から得る収益の増加が主因ですが、うち参加者への返戻分は営業費用の「その他」に計上される両建ての性質があり、増収幅ほど利益は増えません。一方、情報関連337億円とシステム関連138億円の合計475億円(24%)は取引量に左右されにくい安定収益です。

営業費用の内訳の推移(2022年3月期〜2026年3月期)

出典:JPX「2025年度 決算説明資料」(2026年4月28日)よりKabuGraph作成。IFRS第16号に基づき減価償却費に計上している不動産関係費の一部を不動産関係費に組み替えて表示。JPX総研設立に伴い2022年度決算から一部の費用計上区分を変更

費用側は人件費243億円、システム維持・運営費208億円、減価償却費142億円が中心で、この3つで営業費用836億円の71%を占めます。いずれも売買代金が増えても比例して増える性質のものではなく、この固定費型のコスト構造が営業利益率58.5%(2026年3月期)を生んでいます。ただし2026年3月期は「その他」が114億円から194億円へ急増しました。前述の清算参加者への返戻分がここに入っています。2027年3月期の期初予想が営業収益2,050億円・営業利益1,150億円と減益見通しだったのも、システム関連費用と返戻額の増加を織り込んだためです。

日本株取引活況と売買代金の拡大

JPXの業績を最も左右するのは日本株の売買代金です。東証の1日平均売買代金(株券等・立会内外)は2025年度に7.52兆円と前年度比31.9%増加し、2026年1〜2月には月次で10兆円を超える月も現れました。会社は2027年3月期の業績予想を1日平均売買代金7兆5,000億円の前提で置いています。2026年4-6月期には営業収益655億円(前年同期比+51%)、純利益295億円(同+74%)と四半期でも過去最高を記録しました。

日本株市場の活況は、①新NISA制度による個人投資家の参入拡大、②東証の「資本コスト経営」要請(PBR 1倍割れ是正)、③海外投資家の日本株回帰(バフェット効果)、④円安局面での輸出企業の好業績、という複数の構造的要因に支えられています。

デリバティブ市場の動向とデータビジネス

一方、大阪取引所のデリバティブは、2025年度に日経225オプションが+34.8%と伸びた半面、日経225先物(mini・マイクロ含む)は△16.7%、TOPIX先物(ラージ)は+1.5%にとどまり、金融デリバティブ全体では△6.7%と減少しました。2026年3月期の増収は現物株式の売買代金拡大が牽引しています。また、指数ライセンス料やリアルタイムデータ配信による情報関連収益は、取引量に左右されにくい安定収益源として伸長しています。

配当と株主還元

JPXは「配当性向60%以上」を配当方針に掲げ、中期経営計画2027の3か年で合計2,300億円程度の株主還元(自己株式取得600億円程度を含む)を計画しています。2027年3月期の予想配当は77円(配当性向約80%)で、予想配当77円に対する配当利回りは約3.5%(2026年9月1日終値2,216円ベース)と、高ROE企業としては安定した還元水準です。

EPS・1株配当金の推移(2017年3月期〜2027年3月期予想、株式分割調整後)

出典:JPX決算短信各期よりKabuGraph作成。2027/3は会社予想(2026年7月28日の上方修正後)。EPS・1株配当金は2024年10月1日を効力発生日とする株式分割(1:2)を遡及調整した分割後ベース

上のグラフは2024年10月1日の株式分割(1:2)を遡及調整した分割後ベースです。開示ベースでは2024年3月期の年間配当91円が2025年3月期に45.5円へ半減したように見えますが、これは分割によるもので、分割調整後ではいずれも45.5円で横ばいです。実際に配当額が伸びたのは2026年3月期の61円(前期比+34%)からで、売買代金の拡大がそのまま配当に反映された形になります。

注目したいのは、掲げている「配当性向60%以上」が下限であって実績はほぼ70〜80%で推移している点です。EPSが伸びた期は配当も同じ勢いで増える一方、業績連動である以上は減配もあり、2020年3月期(35円→27円)と2023年3月期(36円→31.5円)は実際に前期割れとなりました。累進配当型ではなく、売買代金の水準がそのまま配当に映る銘柄と理解しておく必要があります。

投資家が注目すべきポイント

強み — 独占インフラ × 高利益率 × 高ROE

JPXの最大の強みは日本の資本市場インフラの独占的地位です。取引所の新規参入は事実上不可能であり、取引量が増えれば追加コストをほとんどかけずに収益が拡大します。この構造が営業利益率55〜60%、ROE 23.1%という高い資本効率を生んでいます。

さらに、新NISA制度や東証の市場改革は一過性ではなく構造的な変化です。個人の株式投資が貯蓄から投資へシフトし続ける限り、取引量の基調的な拡大が見込まれます。同セクターの野村ホールディングスが証券リテール・ホールセールで市場に参加する「プレーヤー」であるのに対し、JPXは取引の「場」を提供する側であり、市場活況の恩恵をより直接的に享受する立場にあります。

リスク — 市場環境依存と高バリュエーション

一方で、JPXの収益は株式売買代金に大きく依存しています。2023年3月期には売買低迷で営業収益1,340億円(前期比-1%)と減収に転じた実績があり、市場環境の悪化がダイレクトに業績に響きます。

現在のPER 28.9倍・PBR 6.53倍(2026年9月1日終値2,216円ベース)は、金融セクターとしては極めて高い水準です。独占インフラとしてのプレミアムは妥当ですが、売買代金が低迷に転じた場合、業績悪化とバリュエーション調整の二重苦に見舞われるリスクがあります。同じ金融・保険セクターのオリックス(PER 15.9倍)と比較すると、プレミアムの大きさが際立ちます。

まとめ

JPX(日本取引所グループ)は、日本の株式・デリバティブ市場のインフラを独占的に運営し、営業利益率58%・ROE 23%を誇る高収益企業です。

  • 純利益791億円(+29.5%)で過去最高、2027/3期は985億円(+24%)を計画

  • 1日平均売買代金は2025年度7.52兆円(+31.9%)へ拡大、新NISA・市場改革が構造的な追い風

  • 営業利益率55〜60%の高収益構造、設備投資負担が軽くROE 23.1%

  • PER 28.9倍・PBR 6.53倍は成長期待込みの高水準、市場低迷時の二重苦リスクに注意

「貯蓄から投資へ」の国策が続く限り日本株市場の取引量は基調的に拡大する見通しですが、バリュエーションの高さゆえに市場調整局面での下落幅も大きくなりやすい点を意識した投資判断が求められます。


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日本取引所グループ(JPX)は、東京証券取引所と大阪取引所を傘下に持つ日本の金融市場インフラの中核企業。現物市場(arrowhead取引システム)とデリバティブ市場(J-GATE取引システム)の運営、日本証券クリアリング機構(JSCC)によ…

コラム著者・編集者

K

KabuGraph編集部

KabuGraph編集部は、投資情報の発信と株式分析ツールの開発に携わるチームです。日本株・米国株の事業分析から、投資に役立つ情報をわかりやすくお届けします。

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