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JPX・日本取引所グループ(8697)の企業分析|営業利益率58%の市場インフラ独占、純利益791億円で過去最高更新

2027年3月期 第2四半期決算まで反映

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日本取引所グループ(JPX、8697)は、東京証券取引所・大阪取引所・日本証券クリアリング機構を運営する、日本の資本市場インフラの中核企業です。

2026年3月期は営業収益1,987億円(前期比+22.5%)、純利益791億円(同+29.5%)で過去最高益を更新しました。株式の売買代金がさらに膨らんだ2027年3月期の上期(4〜9月)は、純利益が572億円(前年同期比+65.6%)となり、会社は通期で純利益1,050億円(前期比+32.7%)を見込んでいます。

この記事の内容(目次)

  1. 会社概要 — 日本の資本市場インフラを独占的に運営
  2. 何で稼いでいるのか — 営業収益の6区分
    1. 取引関連収益(774億円・38.9%) — 大半は東証の現物売買代金で決まる
    2. 清算関連収益(542億円・27.3%) — 清算手数料と、膨らんだ担保管理収益
    3. 情報関連収益(337億円・16.9%) — 相場情報料と指数ビジネス
    4. 上場関連収益(187億円・9.4%) — 資金調達で振れる上場料と、時価総額に応じた年間上場料
    5. システム関連収益(138億円・7.0%) — arrownetとコロケーション
    6. どの収益が市況に左右されるか
  3. 業績推移と成長ドライバー
    1. コスト構造 — 固定費が中心で利益率が高い
    2. 日本株取引活況と売買代金の拡大
    3. 2027年3月期の中間決算 — 営業利益65%増、通期予想は9月に2度目の上方修正
    4. デリバティブ市場の動向とデータビジネス
    5. 配当と株主還元
  4. 投資家が注目すべきポイント
    1. 強み — 独占インフラ × 高利益率 × 高ROE
    2. リスク — 市場環境依存と高バリュエーション
  5. コラム:JPXは買収されうるのか — 営利企業と公共インフラの二面性
    1. 免許事業であり、当局の監督下にある
    2. 議決権20%規制 — 「買われない」ように設計されている
    3. 自主規制業務が別法人に切り出されている理由
    4. 公共性が問われた瞬間 — 2020年10月の全銘柄終日売買停止
  6. まとめ

会社概要 — 日本の資本市場インフラを独占的に運営

JPXは2013年に東京証券取引所グループと大阪証券取引所が経営統合して誕生しました。国内上場株式の売買代金の8割程度(2025年、残る2割程度はPTSなどの取引所外取引)を占める東証と、日経225先物などデリバティブ取引を担う大阪取引所を一体運営し、清算・決済まで含めた「市場の垂直統合モデル」を構築しています。

項目

内容

会社名

株式会社日本取引所グループ(JPX)

証券コード

8697(東証プライム)

グループCEO

山道裕己(2026年10月時点)

従業員数

1,268名(連結、2026年3月末時点)

本社

東京都中央区日本橋兜町2-1

主要事業

現物市場(東証)、デリバティブ市場(大阪取引所)、清算決済(JSCC)、情報サービス

何で稼いでいるのか — 営業収益の6区分

JPXは有価証券報告書で「金融商品取引所事業の単一セグメント」としており、事業ごとの売上・利益は開示していません。代わりに開示しているのが営業収益の内訳です。取引所を使う証券会社など(取引参加者)、上場会社、情報ベンダーから、市場を利用する対価として料金を受け取るのが基本の形で、2026年3月期の営業収益1,987億円は6つの区分に分かれます。

営業収益の構成比(2026年3月期)

出典:JPX「JPX Report 2026」(統合報告書)よりKabuGraph作成。営業収益は1,987億円

取引関連と清算関連の2区分で3分の2を占めます。売買代金がさらに膨らんだ2027年3月期の上期(4〜9月)は、取引関連が41.1%、清算関連が31.6%と比率がさらに上がりました(2026年度 第2四半期決算説明資料)。ただし清算関連の上昇は担保管理収益の増加によるところが大きく、担保管理収益を除いた清算関連の比率は19.3%(2026年3月期)から20.1%への小幅な上昇です(KabuGraph算出)。以下、会社の統合報告書と決算説明資料の説明に沿って、区分ごとに中身を見ていきます。

取引関連収益(774億円・38.9%) — 大半は東証の現物売買代金で決まる

証券会社などの取引参加者が支払う料金です。会社の説明では、現物の売買代金とデリバティブの取引高に応じた「取引料」、取引資格に応じた「基本料」、注文件数に応じた「アクセス料」、使う売買システム施設の種類に応じた「売買システム施設利用料」などからなります。2026年3月期の内訳は次のとおりです。

  • 取引料 658億円:現物(株式・ETF・REITなど)553億円、金融デリバティブ93億円、コモディティ・デリバティブ13億円。現物が取引料の84.0%を占める

  • アクセス料 64億円:注文件数に応じて増減し、前期比+13.8%

  • 売買システム施設利用料 41億円・基本料 10億円:設備や取引資格に応じた料金で、前期比+4.6%・△0.9%と売買代金の拡大にはほとんど連動しない

デリバティブの取引料は、大阪取引所の日経225先物(mini・マイクロ含む)35億円、日経225オプション24億円、長期国債先物21億円、TOPIX先物18億円などで、大阪取引所・東京商品取引所のコモディティを含めても取引料の16%です。取引関連収益の大半は東証の現物の売買代金で決まり、売買代金が膨らんだ2027年3月期上期には、現物が取引料に占める比率は89.0%まで上がりました。

清算関連収益(542億円・27.3%) — 清算手数料と、膨らんだ担保管理収益

子会社の日本証券クリアリング機構(JSCC)が、売り手と買い手の間に入って決済を保証する業務(金融商品債務引受業)の清算手数料などです。統合報告書の収益モデルでは、取引関連収益と同じく、株式は売買代金、デリバティブは取引数量に応じた料金と説明されています。

2026年3月期は344億円から542億円へ198億円(+57.5%)増えました。このうち144億円は金利スワップ取引の担保管理から得る収益等の増加で、会社はこれが清算関連収益の増加に大きく寄与したと説明しています。決算説明資料は担保管理収益を除いた清算関連収益も載せており、こちらは330億円から383億円へ16.2%の増加です。差し引くと担保管理収益等は約159億円、清算関連収益の3割弱にあたります(KabuGraph算出)。会社は投資家との対話の主なテーマに「金利上昇に伴う当社ビジネスへの影響(日本証券クリアリング機構の預託担保管理等)」を挙げています。

ただし、この収益のうち清算参加者に返す分は営業費用の「その他」に計上される両建てで、2026年3月期は担保管理費用等も83億円増えました。担保管理費用を除いた営業費用との差から見ると、担保管理収益等の約56%が費用側に計上されています(KabuGraph算出)。増収幅ほど利益は増えません。

情報関連収益(337億円・16.9%) — 相場情報料と指数ビジネス

情報ベンダーなどに株価などの相場情報を提供する「相場情報料」と、TOPIXなどの指数ビジネスに係る収益からなります。相場情報料は、情報ベンダーなどへの情報の提供数に応じた料金です。2026年3月期は相場情報料と指数ビジネスの収益がともに増え、前期比+5.5%でした。

両者の金額の内訳は開示されていません。2027年3月期上期(前年同期比+15.7%)について会社は、相場情報の利用拡大に伴う相場情報料と、株価上昇に伴う指数ライセンス収入の増加を挙げています。同じ情報関連でも、相場情報料は利用の広がりで積み上がり、指数ライセンス収入は株価水準の影響を受けるという違いがあります。

上場関連収益(187億円・9.4%) — 資金調達で振れる上場料と、時価総額に応じた年間上場料

上場会社が支払う料金で、新規上場や上場会社が新株を発行する際に発行額に応じて受け取る「新規・追加上場料」と、時価総額に応じて受け取る「年間上場料」に分かれます。

  • 新規・追加上場料 46億円:IPOや増資などの資金調達の量で振れる。2023年3月期は20億円だった

  • 年間上場料 141億円:2022年3月期の116億円から4年で141億円へ緩やかに増えている。内国ETFは各年末時点の純資産残高が増えると年間上場料も増える

システム関連収益(138億円・7.0%) — arrownetとコロケーション

売買や相場報道のシステムと取引参加者・利用者をつなぐネットワーク「arrownet」の利用料(36億円)と、注文の送信時間を縮めるために取引参加者や情報ベンダーが取引所のシステムセンター内に機器を置く「コロケーション」の利用料(65億円)が柱で、残りはシステム開発・運用に係る収入など(37億円)です。2025年度(2026年3月期)から、それまで「その他の営業収益」に含まれていたこれらを独立した区分にしました。

どの収益が市況に左右されるか

6区分の5年間の推移は次のとおりです。会社は過年度の数字も新しい6区分に組み替えて開示しています。

営業収益の内訳の推移(2022年3月期〜2026年3月期)

出典:JPX「2025年度 決算説明資料」(2026年4月28日)よりKabuGraph作成。2025年度より「システム関連収益」を独立させた6区分に変更され、過年度も組み替え済み

市況との連動の強さで分け直すと、2026年3月期の営業収益1,987億円は次のようになります(KabuGraph算出)。

  • 売買代金・取引高・注文件数に連動(約1,110億円、56%):取引料658億円、アクセス料64億円と、担保管理を除く清算関連収益383億円

  • 株価水準や資金調達の影響を受ける:年間上場料141億円、新規・追加上場料46億円、情報関連収益のうち指数ビジネス(金額は非開示)

  • 利用に応じて積み上がる:相場情報料(金額は非開示)、システム関連収益138億円、基本料・売買システム施設利用料など51億円

  • 金利の影響を受け、過半は費用側に計上:担保管理収益等 約159億円(2026年3月期は約56%が費用側、KabuGraph算出)

取引量に直接連動しない上場・情報・システム関連の計662億円(33%)も、年間上場料や指数ビジネスの収益を通じて株価水準の影響を受けます。市況の影響を比較的受けにくいのは、相場情報料・システム関連収益・基本料などに限られます。

業績推移と成長ドライバー

営業収益・営業利益の推移(2017年3月期〜2027年3月期予想)

出典:JPX決算短信各期よりKabuGraph作成。2027/3は2026年9月24日の上方修正後の会社予想(営業収益2,525億円・営業利益1,545億円)。期初予想(2026年4月28日)は営業収益2,050億円・営業利益1,150億円と減益見通しだったが、7月28日と9月24日の2度にわたり上方修正

コスト構造 — 固定費が中心で利益率が高い

営業費用の内訳の推移(2022年3月期〜2026年3月期)

出典:JPX「2025年度 決算説明資料」(2026年4月28日)よりKabuGraph作成。IFRS第16号に基づき減価償却費に計上している不動産関係費の一部を不動産関係費に組み替えて表示。JPX総研設立に伴い2022年度決算から一部の費用計上区分を変更

費用は人件費243億円、システム維持・運営費208億円、減価償却費142億円が中心で、この3つで営業費用836億円の71%を占めます。いずれも売買代金が増えても比例して増える性質のものではなく、この固定費型のコスト構造が営業利益率58.5%(2026年3月期)を生んでいます。ただし2026年3月期は「その他」が114億円から194億円へ急増しました。前述の清算参加者への返戻分がここに入っています。2027年3月期の期初予想が営業収益2,050億円・営業利益1,150億円と減益見通しだったのも、システム関連費用と返戻額の増加を織り込んだためです。

日本株取引活況と売買代金の拡大

JPXの業績を最も左右するのは日本株の売買代金です。東証の1日平均売買代金(株券等・立会内外)は2025年度に7.52兆円と前年度比31.9%増加し、2026年1〜2月には月次で10兆円を超える月も現れました。2026年4-6月期(第1四半期・3ヶ月)にはさらに1日平均12.39兆円(前年同期比+106%)へ跳ね上がり、営業収益655億円(同+51%)、純利益296億円(同+74%)と四半期として過去最高を記録しました。

日本株市場の活況は、①新NISA制度による個人投資家の参入拡大、②東証の「資本コスト経営」要請(PBR 1倍割れ是正)、③海外投資家の日本株回帰(バフェット効果)、④円安局面での輸出企業の好業績、という複数の構造的要因に支えられています。

2027年3月期の中間決算 — 営業利益65%増、通期予想は9月に2度目の上方修正

2026年10月27日に発表した2027年3月期の中間決算(2026年4〜9月)は、営業収益1,310億円(前年同期比+46.7%)、営業利益847億円(同+65.1%)、純利益572億円(同+65.6%)と大幅な増収増益でした。会社が9月24日に引き上げた通期予想に対し、営業利益の進捗率は54.8%と、折り返し時点で半分を超えています。

増収の中身を、会社の説明に沿って区分ごとに見ると次のとおりです(金額は4〜9月の累計)。

  • 取引関連収益 539億円(+54.9%):株券等の1日平均売買代金が11.90兆円と前年同期(6.28兆円)の約1.9倍になり、現物の取引料が422億円(+74.3%)に増えました

  • 清算関連収益 414億円(+79.5%):株券等の清算で引き受ける金額の増加に加え、金利スワップ取引の担保管理から得る収益等が約98億円増えました。この収益のうち清算参加者へ返す分は費用側に計上されます

  • 上場関連収益 92億円(+16.4%):資金調達の増加などで新規・追加上場料が増え、ETFの純資産残高の増加で年間上場料も増えました

  • 情報関連収益 188億円(+15.7%):相場情報の利用拡大と、株価上昇に伴う指数ライセンス収入の増加によるものです

出典:JPX「2026年度 第2四半期決算の概要」(2026年10月27日)・2027年3月期 第2四半期(中間期)決算短信よりKabuGraph作成

費用側では、営業費用が483億円(+24.0%)に増えました。会社は、賃上げ等による人件費の増加(+20.3%の135億円)、システムの維持保守費用の増加、担保管理に伴う清算参加者への返戻額の増加を挙げています。ただし、担保管理の収益・費用の両建て分を除くと、営業収益+38.0%に対し営業費用は+8.0%にとどまります。決算書どおりの上期の営業利益率も64.6%(前年同期57.4%)に上がりました。売買代金が増えても費用が比例して増えない取引所の収益構造が、そのまま数字に表れています。

四半期ごとの営業収益・営業利益と売買代金(3ヶ月単体)

出典:JPX「2026年度 第2四半期決算の概要」(2026年10月27日)よりKabuGraph作成。各四半期の3ヶ月単体。売買代金(右軸)はプライム・スタンダード・グロース・TOKYO PRO Marketの普通株式とETF・ETN・REIT等の立会内外の1日平均

3ヶ月ごとに見ると、7〜9月期の営業収益は655億円と4〜6月期並みでした。ただし内訳では、売買代金の減少で取引関連収益が278億円から260億円に減っており、総額を支えたのは金利スワップの担保管理収益(約6割は参加者への返戻として費用に計上)の増加です。費用も人件費を中心に増え、営業利益は410億円と4〜6月期(437億円)を下回りました。株券等の1日平均売買代金は6月の14.1兆円をピークに、7月12.5兆円、8月11.3兆円、9月10.3兆円と月を追って落ち着いてきています。前年同期(7〜9月期6.56兆円)と比べればなお高い水準ですが、4〜6月の勢いがそのまま続いているわけではありません。

会社は9月24日、「最近の市況動向を踏まえ」て通期予想の前提とする株券等の1日平均売買代金を10兆2,000億円から11兆円に引き上げ、業績予想と配当予想を7月28日に続いて再び上方修正しました。10月27日の中間決算では予想を据え置いています。

2027年3月期

期初予想(4月28日)

7月28日修正

9月24日修正

前提:1日平均売買代金(株券等)

7兆5,000億円

10兆2,000億円

11兆円

前提:日経225オプション取引金額(1日平均)

255億円

300億円

385億円

営業収益

2,050億円

2,415億円

2,525億円

営業利益

1,150億円

1,455億円

1,545億円

純利益

775億円

985億円

1,050億円

年間配当

61円

77円

82円

出典:JPX「2026年度 第1四半期決算の概要」(2026年7月28日)・「業績予想及び配当予想の修正に関するお知らせ」(2026年9月24日)よりKabuGraph作成。売買代金はプライム・スタンダード・グロース・TOKYO PRO Marketの普通株式とETF・ETN・REIT等(立会内外)の1日平均

上期の実績(11.90兆円)は通期の前提(11兆円)を上回っており、逆算すると会社予想は下期(2026年10月〜2027年3月)の1日平均を10.1兆円程度と置いている計算です(KabuGraph算出、営業日数で按分した概算)。会社は修正の理由を「最近の市況動向を踏まえ」としか書いていませんが、数字の上では下期は9月(10.3兆円)をやや下回る水準を想定した前提で、上期の勢いが続くことまでは求めていません。逆に、下期の平均が10兆円前後を割り込む局面が続けば、修正後予想の未達リスクが表面化します。なお、中期経営計画2027のキャッシュアロケーション(3か年で株主還元2,300億円程度)は、3か年を通じた1日平均売買代金7.5兆円を前提に試算されたままです。

デリバティブ市場の動向とデータビジネス

一方、大阪取引所のデリバティブは、2025年度に日経225オプションが+34.8%と伸びた半面、日経225先物(mini・マイクロ含む)は△16.7%、TOPIX先物(ラージ)は+1.5%にとどまり、金融デリバティブ全体では△6.7%と減少しました。2026年3月期の増収は現物株式の売買代金拡大が牽引しています。また、相場情報料と指数ビジネスの収益などからなる情報関連収益は取引量に直接は連動せず、2022年3月期の272億円から毎年増えています。

2027年3月期の上期(4〜9月)は、金融デリバティブの取引料が49億円(前年同期比+13.1%)に増え、会社は長期国債先物の取引高の増加(+31.0%)が寄与したと説明しています。日経225オプションの取引金額も+70.7%と伸びた一方、日経225先物(mini・マイクロ含む)は△3.3%でした。金先物などのコモディティ・デリバティブは取引高が前年同期の半分以下(△57.1%)に減りましたが、取引料は3億円と全体に占める割合は小さいものです。

配当と株主還元

JPXは「配当性向60%以上」を配当方針に掲げ、中期経営計画2027の3か年で合計2,300億円程度の株主還元(自己株式取得600億円程度を含む)を計画しています。2027年3月期の予想配当は82円(9月24日に77円から増額、配当性向約80%)で、中間配当は41円(前年同期25円)です。予想配当82円に対する配当利回りは約3.9%(2026年10月27日終値2,088円ベース)と、高ROE企業としては安定した還元水準です。

EPS・1株配当金の推移(2017年3月期〜2027年3月期予想、株式分割調整後)

出典:JPX決算短信各期よりKabuGraph作成。2027/3は会社予想(2026年9月24日の上方修正後)。EPS・1株配当金は2024年10月1日を効力発生日とする株式分割(1:2)を遡及調整した分割後ベース。2027年4月1日を効力発生日とする株式分割(1:2)は反映していない

上のグラフは2024年10月1日の株式分割(1:2)を遡及調整した分割後ベースです。開示ベースでは2024年3月期の年間配当91円が2025年3月期に45.5円へ半減したように見えますが、これは分割によるもので、分割調整後ではいずれも45.5円で横ばいです。実際に配当額が伸びたのは2026年3月期の61円(前期比+34%)からで、売買代金の拡大がそのまま配当に反映された形になります。

JPXは2026年10月27日、2027年3月31日を基準日に1株を2株に分ける株式分割(効力発生は4月1日)を発表しました。個人投資家から投資単位の引き下げを期待する声が多いことを踏まえたもので、2024年10月に続く分割です。2027年3月期の期末配当は分割前の株数が基準なので、予想配当82円は分割前の1株あたりの金額です(出典:JPX「株式分割及び株式分割に伴う定款の一部変更に関するお知らせ」2026年10月27日)。株式分割の仕組みは株式分割とはで解説しています。

注目したいのは、掲げている「配当性向60%以上」が下限であって実績はほぼ70〜80%で推移している点です。EPSが伸びた期は配当も同じ勢いで増える一方、業績連動である以上は減配もあり、2020年3月期(35円→27円)と2023年3月期(36円→31.5円)は実際に前期割れとなりました。累進配当型ではなく、売買代金の水準がそのまま配当に映る銘柄と理解しておく必要があります。

投資家が注目すべきポイント

強み — 独占インフラ × 高利益率 × 高ROE

JPXの最大の強みは日本の資本市場インフラの独占的地位です。取引所の新規参入は事実上不可能であり、取引量が増えれば追加コストをほとんどかけずに収益が拡大します。この構造が営業利益率55〜60%、ROE 23.1%という高い資本効率を生んでいます。

さらに、新NISA制度や東証の市場改革は一過性ではなく構造的な変化です。個人の株式投資が貯蓄から投資へシフトし続ける限り、取引量の基調的な拡大が見込まれます。同セクターの野村ホールディングスが証券リテール・ホールセールで市場に参加する「プレーヤー」であるのに対し、JPXは取引の「場」を提供する側であり、市場活況の恩恵をより直接的に享受する立場にあります。

リスク — 市場環境依存と高バリュエーション

一方で、JPXの収益は株式売買代金に大きく依存しています。2023年3月期には売買低迷で営業収益1,340億円(前期比-1%)と減収に転じた実績があり、市場環境の悪化がダイレクトに業績に響きます。

現在のPER 27.2倍・PBR 6.22倍(2026年10月27日終値2,088円、2026年3月期の実績ベース、KabuGraph算出)は、金融セクターとしては極めて高い水準です。会社予想のEPS(102.88円)で計算した予想PERは約20.3倍まで下がりますが、これは通期の1日平均売買代金11兆円(上期実績11.90兆円を含み、下期は10.1兆円程度の計算)を前提にした利益です。独占インフラとしてのプレミアムは妥当ですが、売買代金が低迷に転じた場合、業績悪化とバリュエーション調整の二重苦に見舞われるリスクがあります。同じ金融・保険セクターのオリックス(PER 14.5倍、同日時点)と比較すると、プレミアムの大きさが際立ちます。

コラム:JPXは買収されうるのか — 営利企業と公共インフラの二面性

JPXは東証プライムに上場する営利企業ですが、その事業は金融商品取引法(金商法)の免許事業であり、株主構成から日々の運営まで法律の枠がはめられています。「取引所株を買う」ことの意味は、この二面性を理解しないとつかめません。

免許事業であり、当局の監督下にある

金商法第80条第1項は「金融商品市場は、認可金融商品取引業協会を除き、内閣総理大臣の免許を受けた者でなければ、開設してはならない」と定めています。免許を持つのは子会社の東京証券取引所・大阪取引所で、JPXはそれらを傘下に置く「金融商品取引所持株会社」として第106条の10の認可を受けた会社です。取引所は定款・業務規程の変更にも内閣総理大臣の認可が必要(第149条第1項)で、市場全体に有害と認められる場合の業務停止命令は閣議決定を要します(第152条第1項第2号)。JPXが自社株を東証に上場していること自体も、第124条第1項により都度の承認事項です。

有価証券報告書はこの構造をこう書いています——「これらの規制は、必ずしも当社の株主を保護することを目的とはしていない」。取引所の規制は投資者全体と市場の公正のためにあり、JPXの株主の利益はその次に来る、という位置づけです。

議決権20%規制 — 「買われない」ように設計されている

買収可能性を左右するのが議決権の保有制限です。金商法第106条の14第1項は「何人も、金融商品取引所持株会社の総株主の議決権の保有基準割合以上の数の対象議決権を取得し、又は保有してはならない」と定めます。保有基準割合は第103条の2第1項で原則20%、経営に重要な影響を与えると推測される一定の事実がある場合は15%。認可を取れば超えられる仕組みではなく、端的な禁止規定で、違反には第200条第16号により1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金が科されます。共同保有者や支配関係にある会社の分は合算されるため、名義を分けても回避できません(出典:金融商品取引法(e-Gov法令検索))。

例外は限られています。第106条の14第1項ただし書が適用を外すのは「認可金融商品取引業協会、金融商品取引所又は商品取引所」で、ここでいう「金融商品取引所」は第80条第1項の免許を受けた国内の取引所を指します。海外の取引所は法律上「外国金融商品取引所」という別概念なので、このただし書には入りません。もう一つの例外である第106条の17は「地方公共団体等」が認可を受けて50%以下まで保有できる規定ですが、その範囲は政令で限定列挙されており、外国政府やソブリンウェルスファンドは対象外です。

実際の株主構成もこの枠内に収まっています。2026年3月末の筆頭株主は日本マスタートラスト信託銀行(信託口)の17.04%ですが、これは多数の年金・投資信託の名義を集約した信託口で、信託財産として保有する株式の議決権は内閣府令により規制対象の「対象議決権」から除かれます。大量保有報告書ベースで5%を超える単独の株主は野村アセットマネジメント(5.41%)のみで、実質ベースで15%に近づく株主は存在しません。

自主規制業務が別法人に切り出されている理由

上場審査や上場廃止の判断、取引参加者の法令遵守状況の調査といった自主規制業務は、東証・大阪取引所からの委託を受けて日本取引所自主規制法人(JPX-R)が担っています。分離の理由をJPX自身がこう説明しています——「自主規制機能と株式会社としての営利性との間に生じうる利益相反を適切に管理するため」(出典:JPX「自主規制業務の適正な実施を確保するための体制の整備に係る方針」2018年4月1日制定)。

上場会社は取引所にとって上場料を払う顧客でもあります。営利会社が審査と処分を兼ねれば、収益のために審査を甘くする誘因が生じかねません。そこで金商法は自主規制法人について「営利の目的をもつて業務を行つてはならない」(第102条の21)と定め、さらに理事の過半数を委託元と関係のない外部理事とし、理事長も外部理事から選ぶことを求めています(第102条の23第3項・第6項)。JPXの高収益は、この審査部門を切り離したうえで成立しているものです。

公共性が問われた瞬間 — 2020年10月の全銘柄終日売買停止

この二面性が最も鋭く表れたのが2020年10月1日のシステム障害です。売買システムarrowheadの共有ディスク装置の故障を起点に別系統への自動切替えが働かず、東証の全銘柄が寄り付きから終日、売買停止となりました。金融庁は同年11月30日、東証に対し金商法第153条前段、JPXに対し第106条の28第1項に基づく業務改善命令を発出しています。処分理由は「平成30年10月のシステム障害の発生を契機に各種の対応策を講じてきたにもかかわらず、再びシステム障害が発生し…全ての取引が停止に至ったことは、金融商品取引所に対する投資者等の信頼を著しく損なうものであると認められる」(出典:金融庁「株式会社東京証券取引所及び株式会社日本取引所グループに対する行政処分について」2020年11月30日)。

命令は再発防止策の実施に加えて「責任の所在の明確化」を求め、東証社長(JPXグループCo-COO兼務)の宮原幸一郎氏が同日付で辞任、グループCEOの清田瞭氏は月額報酬50%減額4か月となりました。民間企業の障害でありながら経営責任の取り方まで行政処分の対象になる——これが市場インフラを預かる会社の立場です。投資家にとっては、システム障害が一般企業と違って直接に行政処分と経営陣の進退に結びつくリスク要因であることを意味します。

まとめ

JPX(日本取引所グループ)は、日本の株式・デリバティブ市場のインフラを独占的に運営し、営業利益率58%・ROE 23%を誇る高収益企業です。

  • 2026年3月期は純利益791億円(+29.5%)で過去最高。2027年3月期は中間期で572億円(+65.6%)、通期で1,050億円(+32.7%)を計画

  • 1日平均売買代金は2025年度7.52兆円(+31.9%)、2026年4〜9月は11.90兆円へ拡大。ただし月次では6月の14.1兆円から9月の10.3兆円へ落ち着いてきている

  • 営業利益率55〜60%の高収益構造、設備投資負担が軽くROE 23.1%

  • PER 27.2倍・PBR 6.22倍(2026年10月27日終値時点)は成長期待込みの高水準、市場低迷時の二重苦リスクに注意

  • 2027年4月1日に1株→2株の株式分割を予定(2024年10月の分割に続く投資単位の引き下げ)

「貯蓄から投資へ」の国策が続く限り日本株市場の取引量は基調的に拡大する見通しですが、バリュエーションの高さゆえに市場調整局面での下落幅も大きくなりやすい点を意識した投資判断が求められます。


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日本取引所グループ(JPX)は、東京証券取引所と大阪取引所を傘下に持つ日本の金融市場インフラの中核企業。現物市場(arrowhead取引システム)とデリバティブ市場(J-GATE取引システム)の運営、日本証券クリアリング機構(JSCC)によ…

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KabuGraph編集部

KabuGraph編集部は、投資情報の発信と株式分析ツールの開発に携わるチームです。日本株・米国株の事業分析から、投資に役立つ情報をわかりやすくお届けします。

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