古河電気工業(5801)の企業分析|ローラブルリボンで超多芯光ケーブル、AI・データセンター需要で1,000億円増産投資に踏み切る電線メーカー
2027年3月期 第1四半期決算まで反映

古河電気工業(5801)は、1884年創業の老舗電線メーカーでありながら、AI・データセンター向け光ファイバーで急成長を遂げている企業です。
光ファイバの主要サプライヤーの一角として、独自のローラブルリボン技術を武器にデータセンター向け超高密度光ケーブルの需要を取り込んでいます。2026年8月には光ファイバー増産に総額約1,000億円の設備投資を発表し、ローラブルリボンケーブルの製造能力を約2倍に引き上げる計画です。
2026年3月期は売上高1兆3,076億円(前期比+8.8%)、営業利益639億円(同+35.8%)で大幅増益。続く2027年3月期第1四半期(3ヶ月)も営業利益255億円(前年同期比+205%)と好調で、会社は2026年8月6日に通期予想を上方修正しました。株価3,858円(2026年9月1日終値)に対する実績PER約37倍・予想PER約26倍と、AI・データセンター関連としての成長期待を織り込んだ水準にあります。
この記事では、古河電工の光ファイバー事業の成長性、事業ポートフォリオ、業績推移と投資判断のポイントを個人投資家の視点から解説します。
会社概要 — 明治生まれの電線メーカーがAIインフラの中枢へ
古河電気工業は1884年(明治17年)、古河市兵衛が創設した銅製錬・電線事業をルーツとする老舗企業です。現在は光ファイバー・電力ケーブル・自動車ワイヤーハーネス・放熱材料など、「つなぐ」技術を軸にした多角的な事業ポートフォリオを持っています。
項目 | 内容 |
|---|---|
会社名 | 古河電気工業株式会社(Furukawa Electric Co., Ltd.) |
証券コード | 5801(東証プライム) |
本社 | 東京都千代田区大手町二丁目6番4号 |
代表取締役社長 | 森平 英也 |
従業員数 | 49,112名(連結、2026年3月31日現在) |
業種 | 非鉄金属 |
決算期 | 3月 |
時価総額 | 約2兆7,300億円(2026年9月1日時点) |
セグメント別売上構成比(2026年3月期実績)
売上構成では電装エレクトロニクス(自動車部品と銅条・巻線などの電装材料)が約59%と最大ですが、成長と投資家の注目を集めているのはインフラ事業(光ファイバー・電力ケーブル等)の急成長です。インフラ事業の売上は前期比+20%の3,709億円に達し、営業利益は214億円を記録しました。
セグメント別売上推移
インフラ事業は2024年3月期に一度減収(2,782億円)したあと、2025年3月期3,091億円、2026年3月期3,709億円と2期で3割強伸びています。電装エレクトロニクスは銅価格の上昇も追い風に、2022年3月期の5,007億円から2026年3月期の7,651億円へ拡大しました。
光ファイバー事業とデータセンター戦略
ローラブルリボン — データセンター向け超高密度光ケーブル
古河電工の光ファイバー事業の最大の武器は「ローラブルリボン」技術です。従来のリボンファイバーは12芯を平面状に並べて接着する方式でしたが、ローラブルリボンは芯線同士を間欠的に点で接着することで、丸めたり捩ったりして極めて高密度にケーブル内に収納できます。
1,000億円の増産投資
2026年8月、古河電工は光ファイバおよび光ファイバケーブルの生産能力増強に総額約1,000億円を投じると発表しました。米国、ブラジル、日本、インドの4カ国で製造装置・土地・建屋を整備し、ローラブルリボンケーブルの製造能力を光ファイバ数量換算で2025年度末対比おおむね2倍に引き上げる計画で、量産開始は2028年度下期から順次となる予定です(2027年3月期の連結業績への影響は軽微)。出典:古河電工「光ファイバおよび光ファイバケーブルの生産に係る固定資産の取得に関するお知らせ」(2026年8月4日)。
会社は本投資について「長期のものも含め、顧客からの購入コミットメントを確認している」と説明しています。なおインド拠点(Birla Furukawa Fibre Optics、BFFO)は合弁相手Universal Cables社との持分法適用会社で、同社との協議成立をもって投資が確定します。
2027年3月期第1四半期(3ヶ月)からは報告セグメントが6区分に再編され、光ファイバ・ケーブル事業は「光ソリューション」として単独で開示されるようになりました。同四半期の光ソリューションは売上高600億円(前年同期比+45.6%)、営業利益92億円(前年同期は7億円の赤字)と、データセンター関連製品の売上増で黒字転換しています。会社の2027年3月期通期予想では光ソリューションの営業利益430億円(前期107億円)を見込んでいます。
電装エレクトロニクス事業 — 自動車部品と銅条・巻線の2本柱
売上の約59%を占める電装エレクトロニクス事業は、2026年3月期で売上7,651億円(前期比+3.9%)、営業利益339億円を記録しました。内訳は自動車部品(ワイヤーハーネス等)3,978億円と、銅条・巻線などの電装エレクトロニクス材料3,673億円のほぼ半々で、自動車部品は全社売上の約3割にあたります(FACT BOOK、2026年5月12日)。
自動車部品はグループ会社の古河ASを通じてグローバル展開しており、2027年3月期からの新区分では「自動車電装システム」(第1四半期売上920億円・前年同期比+10.9%)にあたります。ただし、EV化に伴う部品点数の変化や、顧客である完成車メーカーの生産計画変動の影響を受けやすい事業です。電装エレクトロニクス材料は新区分ではおおむね「メタルソリューション」に相当し、銅価格の変動で売上が大きく動く一方、利益率は低い事業です(第1四半期売上1,217億円・同+55.0%、営業利益8億円)。
機能製品事業 — 放熱・半導体・高周波
機能製品事業(売上1,611億円、前期比+9.6%)は、放熱・冷却製品、半導体製造用テープ、高周波基板用電解銅箔などの高付加価値製品を手がけます。データセンターの冷却ニーズの高まりを背景に放熱材料の需要が急拡大しており、光ファイバーに続くAI関連の第3の成長領域として期待できます。2027年3月期からの新区分では放熱・冷却製品や半導体製造用テープ、銅箔は「情報コンポーネント」に含まれ、同セグメントの第1四半期(3ヶ月)は売上596億円(前年同期比+32.8%)、営業利益74億円(同+105.2%)でした。
業績推移と財務分析
古河電工の業績は長年、銅価格と自動車生産台数に左右される景気循環型でしたが、2025年3月期以降は業績改善が続いています。ただし牽引役は期によって違います。2025年3月期の回復は自動車部品・エネルギーインフラ・機能製品によるもので、光ファイバーを含む情報通信ソリューションはまだ営業赤字(▲41億円)でした。
2026年3月期に情報通信ソリューションが営業利益118億円へ黒字転換し、光ファイバー事業が全社増益の最大要因となる構図に変わりました。
事業別営業利益 | 2024/3 | 2025/3 | 2026/3 |
|---|---|---|---|
情報通信ソリューション(光ファイバー等) | ▲130 | ▲41 | 118 |
エネルギーインフラ | 17 | 98 | 96 |
自動車部品・電池 | 156 | 276 | 280 |
電装エレクトロニクス材料 | 31 | 50 | 59 |
機能製品 | 55 | 141 | 154 |
全社(調整額・サービス等含む) | 112 | 470 | 639 |
通期業績推移(売上高・営業利益・営業利益率)
2025年3月期からの業績改善が著しいことが分かります。営業利益は2024年3月期の112億円→2025年3月期471億円→2026年3月期639億円と急回復し、2027年3月期の会社予想は1,230億円(前期比+93%、2026年8月6日に期初予想の950億円から上方修正)とほぼ倍増を見込んでいます。営業利益率も従来1〜2%台で推移していたものが、2026年3月期に4.9%、2027年3月期予想で8.0%と大幅に改善しています。
2027年3月期 第1四半期(3ヶ月)— 営業利益3倍、通期予想を上方修正
2026年8月6日に開示された2027年3月期第1四半期(2026年4〜6月、3ヶ月)は、売上高3,652億円(前年同期比+24.3%)、営業利益255億円(同+205.4%)と大幅な増収増益でした。第1四半期の営業利益だけで前期通期(639億円)の4割に相当します。
項目 | 2027/3 Q1(3ヶ月) | 前年同期 | 前年同期比 | 通期予想進捗率 |
|---|---|---|---|---|
売上高 | 3,652億円 | 2,937億円 | +24.3% | 23.9% |
営業利益 | 255億円 | 83億円 | +205.4% | 20.7% |
経常利益 | 310億円 | 77億円 | +304.0% | 21.6% |
純利益 | 222億円 | 51億円 | +335.0% | 21.2% |
EPS(分割後) | 31.60円 | 7.25円 | +335.9% | 21.2% |
同日、会社は2027年3月期の通期予想を上方修正しました。修正の理由は、光ソリューション・情報コンポーネント両事業でのデータセンター関連製品の需要増と、持分法投資利益の増加(第1四半期は59億円、前年同期21億円)です。中間期(上期累計)予想も売上7,200億円・営業利益495億円・純利益425億円へ引き上げています。
2027/3期 通期予想 | 期初予想(5月12日) | 修正後(8月6日) | 修正率 |
|---|---|---|---|
売上高 | 1兆4,600億円 | 1兆5,300億円 | +4.8% |
営業利益 | 950億円 | 1,230億円 | +29.5% |
経常利益 | 1,000億円 | 1,430億円 | +43.0% |
純利益 | 820億円 | 1,050億円 | +28.0% |
EPS | 116.56円 | 149.25円 | +28.0% |
EPS・配当金の推移
EPS・1株配当金の推移(株式分割調整後)
配当は2024年3月期の6円から2026年3月期は21円へと3.5倍に増配しています(いずれも2026年7月の1:10株式分割を反映した分割後ベース。分割前の実額では60円→210円)。配当性向は20.4%と低く、2027年3月期の会社予想配当は22円(配当性向14.7%)とさらに増配を見込んでいます。ただし株価3,858円に対する予想配当利回りは約0.6%で、高配当銘柄ではありません。
増益予想なのに配当性向が下がるのは、株主還元の指標が変わったためです。会社は2026年5月に、ビジョン2030の期間(2026〜2030年度)の株主還元方針を従来の「連結純利益の30%を目途とした配当性向」からDOE(株主資本配当率)3.5%を目途に変更しました(2026年3月期決算短信)。単年度の利益ではなく株主資本を基準にするため配当は安定しやすい一方、利益が急伸する局面では配当性向が下がります。
投資家が注目すべきポイント
強み① AI・データセンター向け光ファイバーの構造的成長
生成AIの普及に伴い、ハイパースケーラー(Google、Microsoft、Amazon、Metaなど)のデータセンター投資が急拡大しています。データセンター内のGPU間接続には大量の光ファイバーが必要であり、古河電工のローラブルリボン技術は限られたスペースに最大数の光ファイバーを敷設するための最適解です。インフラ事業の売上は2026年3月期に前期比+20%と急成長し、2027年3月期第1四半期(3ヶ月)には新区分の光ソリューションが売上600億円(前年同期比+45.6%)・営業利益92億円と黒字転換しました。1,000億円の増産投資はこの需要の持続性に対する経営陣の確信を反映しています。
強み② 超多芯光ケーブルの独自技術
古河電工は世界最高水準のコア密度(10.5コア/mm²)を持つ6,912心光ファイバケーブルの実績や、光海底ケーブル用特殊ファイバーの技術を持ちます。新ブランド「Lightera(ライテラ)」を2025年4月に立ち上げ、光ファイバ・ケーブル事業の運営体制を刷新して一体的な成長を目指しています(出典:古河電工「光ファイバ・ケーブル事業の運営体制を刷新、4月1日より新ブランド『Lightera』が始動」(2025年3月6日))。
強み③ 機能製品(放熱材料)という第3の成長領域
データセンターの冷却需要を背景に、放熱・冷却製品や高周波基板用電解銅箔を手がける機能製品事業の売上は1,611億円(前期比+9.6%)まで拡大しました。2027年3月期からはこれらを「情報コンポーネント」として括り直し、第1四半期(3ヶ月)は営業利益74億円(前年同期比+105.2%)と伸びています。光ファイバー(インフラ)に続く第3の成長領域といえます。
リスク① 銅価格変動リスク
電装エレクトロニクス事業は銅を大量に使用するため、銅価格の変動が売上・利益に直接影響します。銅相場が急落すれば売上が目減りし、急騰すればコスト増が利益を圧迫します。事業構造上、金属市況リスクから完全に脱却することは難しい点は意識すべきです。
リスク② 純利益の一過性要因とバリュエーション水準
2026年3月期の純利益725億円は前期比+117%と急増しましたが、これには投資有価証券売却益193億円・退職給付制度改定益194億円を含む特別利益401億円(特別損失は111億円)という一時的要因が含まれます。持分法投資損益165億円(前期106億円)の拡大も経常利益を押し上げました。2027年3月期の会社予想(8月6日修正後)は経常利益1,430億円・純利益1,050億円と本業の伸びと持分法投資利益の増加を前提とした計画であり、実績PERではなく予想PERや営業利益ベースで収益力を評価することが重要です。株価3,858円に対する実績PERは約37倍(2026年3月期実績EPS103.02円ベース)、2027年3月期会社予想EPS149.25円ベースの予想PERは約26倍、PBR6.5倍と、成長期待は相応に織り込まれた水準です。
リスク③ EV化による電装事業の構造変化
電装エレクトロニクス(売上の約59%)の半分強、全社売上の約3割を占める自動車部品(ワイヤーハーネス等、新区分では「自動車電装システム」)は、EV化に伴う部品点数の変化リスクがあります。EVではエンジン関連のハーネスが不要になる一方、バッテリー関連の高電圧ハーネスが新たに必要になるなど、自動車業界の構造変化への適応が求められます。
リスク④ 1,000億円投資の回収リスク
売上高1兆3,076億円・時価総額約2兆7,300億円の企業にとっても、単一領域に1,000億円を投じるのは非常に大きな規模です。AI・データセンター向け光ファイバー需要は構造的な成長が見込まれていますが、ハイパースケーラーの投資方針転換や光学インターコネクトへの技術シフトがあれば過剰投資リスクが顕在化する可能性があります。会社は長期のものを含む顧客の購入コミットメントを確認済みと説明しており、この点はリスクを和らげる材料ですが、量産開始は2028年度下期からで、コミットメントの規模や期間は開示されていません。
まとめ
古河電気工業は、明治時代に創業した老舗電線メーカーが、AI・データセンター向け光ファイバーという成長領域で脚光を浴びている典型的なリバリュー銘柄です。ローラブルリボン技術を武器に超多芯光ケーブルで独自のポジションを築き、1,000億円の増産投資で攻めの姿勢を鮮明にしています。
2027年3月期は会社予想(2026年8月6日上方修正後)で売上1.53兆円(+17%)、営業利益1,230億円(+93%)、純利益1,050億円と大幅増益を見込んでいます。EPSは分割後ベースで103.02円→149.25円(+44.9%)と、増益に伴う伸びを見込む計画です。第1四半期(3ヶ月)は営業利益255億円で通期予想の20.7%を消化しており、下期偏重の計画に対して順当な滑り出しです。
一方で、2026年3月期の純利益に含まれる一過性要因、実績PER約37倍・予想PER約26倍というすでに高めのバリュエーション、銅価格変動リスク、電装事業のEV化対応、大型投資の回収リスクは慎重に評価すべきポイントです。「地味な電線株」から「AIインフラの中核企業」へという変貌が本物かどうか、今後数期の業績推移が試金石となります。
古河電気工業
電力系統向けケーブル、通信光ファイバー、自動車用電線・ハーネスから半導体材料、環境・リサイクル事業までを展開。電線業を基盤に電力・通信・自動車インフラの進化に対応。










