三菱重工業(7011)の企業分析|防衛費倍増の最大受益者、ガスタービン・原子力・宇宙で事業利益5,400億円へ
2027年3月期 第1四半期決算まで反映

三菱重工業(7011)は、日本最大の総合重工業メーカーであり、防衛省との契約額で国内No.1の防衛関連企業です。ガスタービン、原子力、航空機、艦船、ミサイル、宇宙ロケットまで、陸・海・空・宇宙すべての領域をカバーする唯一の企業として、日本の安全保障と産業基盤を支えています。
2026年3月期は売上収益4兆9,741億円、事業利益4,322億円で過去最高益を更新。2027年3月期は売上収益5兆4,000億円、事業利益5,400億円(+24.9%)を見込んでおり、エナジー事業と防衛事業の両輪で成長が加速しています。
この記事では、三菱重工業のセグメント別事業構造と防衛事業の拡大余地、業績推移、投資判断のポイントを個人投資家の視点からわかりやすく解説します。
会社概要 — 日本最大の総合重工業メーカー
三菱重工業は1884年(明治17年)に長崎造船所として創業し、140年以上の歴史を持つ日本を代表する重工業メーカーです。発電プラント、航空機エンジン、艦船、宇宙ロケット、産業機械など500種類を超える製品を手がけ、事業領域の広さは世界の重工業メーカーの中でも類を見ません。
項目 | 内容 |
|---|---|
会社名 | 三菱重工業株式会社(Mitsubishi Heavy Industries, Ltd.) |
証券コード | 7011(東証プライム) |
本社 | 東京都千代田区丸の内三丁目2番3号 |
代表取締役社長 | 伊藤 栄作 |
従業員数 | 78,793名(連結、2026年3月31日時点) |
業種 | 機械(総合重工業) |
決算期 | 3月 |
時価総額 | 約13.1兆円(2026年9月18日終値) |
セグメント別売上構成比(2026年3月期実績)
売上の約42%を占めるエナジーセグメントはGTCC(ガスタービン・コンバインドサイクル発電プラント)と原子力を中心に、世界のエネルギーインフラを支えています。第2の柱である航空・防衛・宇宙セグメント(28%)は、防衛費倍増の国策を追い風に急成長しています。
セグメント別売上推移
事業セグメントと成長ドライバー
エナジー — GTCC発電と原子力で世界のエネルギーインフラを支える
エナジーセグメント(2026年3月期 売上2兆626億円)は、三菱重工の最大の収益源です。中核製品であるGTCC(ガスタービン・コンバインドサイクル)発電プラントは、天然ガスを燃料とし、ガスタービンと蒸気タービンの二段階で発電する高効率なシステムです。北米のデータセンター向け電力需要の急増やアジアの電力インフラ整備を背景に、受注が拡大しています。
原子力分野では、国内の原発再稼働に加え、次世代軽水炉や高温ガス炉の開発を推進。米国ではテラパワー社と連携し、次世代原子炉(Natrium)への技術提供も行っています。
航空・防衛・宇宙 — 防衛・宇宙事業が年間1兆円規模に到達
航空・防衛・宇宙セグメント(2026年3月期 売上1兆3,938億円、事業利益1,515億円)は、防衛省との契約額で国内No.1の地位にあります。主な製品は以下の通りです。
領域 | 主要製品 | 特徴 |
|---|---|---|
陸 | 10式戦車、16式機動戦闘車 | 国内唯一の戦車メーカー |
海 | 護衛艦、潜水艦(川崎重工と交互建造) | 豪州次期フリゲート艦も受注 |
空 | F-35A最終組立・検査(FACO)、GCAP(次期戦闘機) | 英伊と共同開発、2035年配備予定 |
ミサイル | 12式地対艦誘導弾(能力向上型) | 射程約1,000kmとされるスタンド・オフ・ミサイル |
宇宙 | H3ロケット | JAXA基幹ロケット、商業打ち上げ拡大 |
日本政府は2023〜2027年度の防衛費を43兆円に拡大する方針を決定しており、三菱重工の防衛・宇宙事業の売上収益は2026年3月期に1兆1,445億円(前期比+38%)と初めて1兆円を突破しました。2027年3月期は1兆2,500億円を計画しています。航空・防衛・宇宙セグメントの受注残高も2026年度第1四半期末で3兆8,983億円(全社では14兆1,030億円)に積み上がっており、今後数年間の売上を支えます(出典:三菱重工業 2025年度決算説明会資料、2026年度第1四半期 決算説明会資料)。
プラント・インフラ / インダストリアル・ソリューション(旧 物流・冷熱・ドライブシステム)
プラント・インフラセグメント(2026年3月期 売上8,808億円)は、化学プラント、製鉄機械、交通システムなどを手がけます。インダストリアル・ソリューションセグメント(旧 物流・冷熱・ドライブシステム、2026年3月期 売上6,308億円)は、発電・産業用エンジンとターボチャージャ(2,856億円)、冷熱・カーエアコン(3,531億円)が柱です。
フォークリフトの三菱ロジスネクストは2026年5月に日本産業パートナーズへ売却し、連結から外れました(2026年3月期から非継続事業に分類)。2027年3月期はデータセンター向け冷却・エネルギーマネジメント事業を編入し、売上7,500億円・事業利益300億円(組替後の2026年3月期実績△20億円から黒字転換)を見込みます。両セグメントとも安定的な収益を生み出す基盤事業の位置づけです。
防衛関連企業の比較
企業 | 防衛の強み | PER | 時価総額 |
|---|---|---|---|
三菱重工業 | 戦車・艦船・戦闘機・ミサイル・ロケット | 39.2倍 | 13.1兆円 |
川崎重工業 | 潜水艦・ヘリ・輸送機 | 18.6倍 | 2.1兆円 |
IHI | 航空エンジン・ロケット | 18.8倍 | 3.1兆円 |
業績推移と財務分析
三菱重工業はIFRS(国際会計基準)を採用しており、利益指標に「事業利益」を用いています。売上総利益から販管費を引き、持分法投資損益と、受取配当金・固定資産売却損益・減損損失などの「その他の収益・費用」を加減したもので、日本基準の営業利益に経常的な営業外損益と特別損益の一部を含めたイメージです(連結損益計算書に営業利益の科目はありません)。
通期業績推移(売上収益・純利益)
事業利益の推移
三菱重工の事業利益は防衛事業とエナジー事業の拡大により急速に改善しています。
事業利益と事業利益率の推移
EPS・配当金の推移
EPS・1株配当金の推移
2027年3月期の会社見通しと2024事業計画の目標
中期経営計画「2024事業計画」(2025年3月期〜2027年3月期)の最終年度目標は、事業利益4,500億円以上・事業利益率8%以上・ROE12%以上でした。2026年3月期に事業利益率8.7%・ROE12.2%と利益率とROEの目標を1年前倒しで達成し、最終年度の2027年3月期は目標を2割上回る事業利益5,400億円を見込んでいます。次期中期事業計画で数値目標を具体化する予定です。
指標 | 2026/3実績 | 2027/3会社見通し | 2024事業計画の目標(2027/3) |
|---|---|---|---|
売上収益 | 4兆9,741億円 | 5兆4,000億円 | — |
事業利益 | 4,322億円 | 5,400億円 | 4,500億円以上 |
事業利益率 | 8.7% | 10.0% | 8%以上 |
ROE | 12.2% | 12% | 12%以上 |
純利益 | 3,321億円 | 3,800億円 | — |
FCF | 8,934億円(過去最高) | 6,000億円(Q1で3,000億円から上方修正) | — |
投資家が注目すべきポイント
強み① 防衛費倍増の最大受益者
日本政府は2023〜2027年度の防衛費を43兆円に拡大する方針を閣議決定しており、GDP比2%への引き上げを目指しています。三菱重工は防衛省との契約額で国内No.1であり、戦車・護衛艦・戦闘機・ミサイル・ロケットと全領域をカバーできる唯一の企業です。GCAP(次期戦闘機)の英伊との共同開発や、豪州向け次期フリゲート艦の受注など、装備品輸出の拡大も新たな成長ドライバーとなっています(出典:三菱重工業「豪州政府と次期汎用フリゲートの共同開発・生産に関する契約締結」(2026年4月18日))。
2026年9月には、装備品とクラウド・AIの運用を一体化する動きも出ています。
2026年9月2日:NECと防衛分野の戦略的提携に向けた覚書を締結。作戦計画・指揮統制や無人アセットの領域で連携し、データ・AI主権を確立した防衛システムを目指す(出典:三菱重工業ニュースリリース)
2026年9月16日:Preferred Networks(PFN)と資本業務提携し、第三者割当増資を引き受けて100億円を出資。社会インフラ・ナショナルセキュリティ分野で機械・システムの知能化・自律化に向けたAIを共同開発する(出典:三菱重工業ニュースリリース)
強み② GTCC・原子力がエナジー事業を牽引
エナジーセグメントはGTCC発電プラントと原子力事業の好調により、2026年3月期に売上2兆626億円を達成しました。AIデータセンターの電力需要急増は中長期的な追い風であり、2027年3月期Q1は連結事業利益率が13.4%(前年同期9.4%)に改善し、エナジーセグメントは事業利益1,013億円(前年同期比+80%)・事業利益率18.9%と牽引役になっています(出典:三菱重工業 2026年度第1四半期 決算説明会資料)。
強み③ 過去最高のFCFと収益性改善
2026年3月期のフリーキャッシュフローは8,934億円で過去最高を更新。事業利益率は8.7%まで改善し、2027年3月期は10.0%を見込んでいます。配当性向は約25%と控えめですが、業績成長に伴い増配傾向が続いています。
2026年8月4日の第1四半期決算では、売上収益・事業利益・純利益・配当の見通しは据え置いた一方で、受注高とFCFの見通しを上方修正しました。
受注高見通し:6.8兆円 → 7.0兆円(エナジー 3.45兆円 → 3.55兆円、航空・防衛・宇宙 1.65兆円 → 1.75兆円)
FCF見通し:3,000億円 → 6,000億円(第1四半期(3ヶ月)のFCFは3,915億円、前年同期比+3,271億円)
リスク① PER39倍の高バリュエーション
三菱重工の株価は防衛費増額への期待から過去3年で約4.6倍に急騰しました(2023年9月末の分割調整後835円 → 2026年9月18日終値3,879円)。現在のPER39.2倍(2026年9月18日終値、直近通期の実績EPS 98.86円ベース)は重工業セクターとしては異例の高水準です。防衛関連株としての「テーマ性」が株価を押し上げている側面があり、業績が市場期待を下回った場合の調整リスクは大きいと言えます。
リスク② 防衛装備品輸出の政治リスク
GCAP(次期戦闘機)や豪州フリゲート艦など海外案件は成長ドライバーですが、防衛装備品の輸出は政治判断に大きく左右されます。防衛装備移転三原則の運用変更は国内政治の動向次第であり、開発遅延や政治リスクが収益計画を狂わせる可能性があります。
リスク③ 大型プロジェクトの工期・コストリスク
三菱重工は過去にSpaceJet(旧MRJ)で1兆円超の損失を計上した実績があります。造船・宇宙・原子力などの大型プロジェクトは工期が長く、資材価格の変動や設計変更による追加コスト発生のリスクが常に存在します。現在のGCAPプロジェクト(2035年配備予定)も同様のリスクを内包しています。
リスク④ 人材確保と製造キャパシティ
防衛事業の急拡大に対し、熟練技術者の確保と生産能力の増強が課題です。防衛産業のサプライチェーンは中小企業に依存する構造であり、急な増産には対応が難しい面があります。量産フェーズへの移行には数年のリードタイムを要するため、短期的な売上成長は受注残の消化ペースに左右されます。
まとめ
三菱重工業は、防衛費倍増という国策の追い風と、GTCC・原子力を中心とするエナジー事業の構造的成長という2つの強力な成長エンジンを持つ日本を代表する重工業メーカーです。
2027年3月期は事業利益5,400億円(+24.9%)を見込み、Q1時点では連結事業利益率が13.4%(前年同期9.4%)へ改善し、事業利益率18.9%のエナジーセグメントが牽引役となっています。航空・防衛・宇宙セグメントの受注残高は約3.9兆円(全社では14.1兆円)に積み上がっており、今後数年間の売上を支えます。
一方で、PER39.2倍(2026年9月18日終値)という高バリュエーション、防衛装備品輸出の政治リスク、大型プロジェクトの工期・コストリスクは投資判断において慎重に考慮すべき要素です。長期的な防衛費拡大トレンドとデータセンター向けGTCC需要の拡大を信じるかどうかが、投資判断の分かれ目となるでしょう。
三菱重工業
三菱重工業は火力・原子力・風力発電システム、航空機用エンジン、製鉄機械、商船・交通システム、エアコン・ターボチャージャ、防衛航空機・ロケットなど幅広い重工業製品を4つのセグメントで展開する日本最大級の重工業メーカー。










