協和キリン(4151)徹底分析|クリースビータで世界に挑む希少疾患特化型ファーマの実力
2026年12月期 第3四半期決算まで反映

協和キリン(4151)は、キリンホールディングス傘下の製薬企業です。骨の希少疾患の治療薬「クリースビータ(Crysvita)」を核にグローバル展開を加速させ、2025年12月期は売上収益4,968億円、コア営業利益1,031億円で過去最高を更新しました(コア営業利益は、会社が非経常的と判断した損益を除いて算出する会社独自の利益指標)。
この記事では、事業とパイプライン(開発中の新薬候補)、業績と配当の推移、大型市場向けの開発品ロカチンリマブを中止した後の課題までを整理します。
この記事の内容(目次)
会社概要と沿革
基本情報
項目 | 内容 |
|---|---|
社名 | 協和キリン株式会社 |
証券コード | 4151(東証プライム) |
代表者 | 代表取締役社長CEO アブドゥル・マリック |
親会社 | キリンホールディングス(議決権の55.22%、2025年12月31日現在) |
本社 | 東京都千代田区大手町 |
従業員数(連結) | 5,161名(2025年12月31日現在) |
決算期 | 12月 |

事業構造:希少疾患特化型のグローバルファーマ
協和キリンは「Life-changingな価値の創出」を掲げ、骨・ミネラル、血液がん・難治性血液疾患、希少疾患の3領域に注力するスペシャリティファーマ(特定の病気の領域に絞って新薬を手がける製薬会社)です。
抗体工学技術「POTELLIGENT」を強みとし、高い抗体活性を持つバイオ医薬品の開発に定評があります。キリンHDグループの製薬中核企業で、発酵・バイオテクノロジーの基盤技術を活かした独自の創薬力が特徴です。
沿革と成長の軌跡
1949年:協和醱酵工業として設立。醗酵技術を基盤に医薬品事業へ
2008年:協和醱酵工業とキリンファーマが合併、協和発酵キリンに
2012年:ポテリジオ(モガムリズマブ、T細胞リンパ腫の治療薬)が日本で承認。世界初の抗CCR4抗体
2018年:クリースビータ(ブロスマブ)欧米で承認。希少疾患のグローバル展開本格化
2019年:社名を「協和キリン」に変更(グローバル・スペシャリティファーマの実現を加速するため)
2026年1月:Amgenとのロカチンリマブ(アトピー性皮膚炎の開発品)の共同開発・販売契約が終了し、全世界の開発・商業化権を再取得
2026年3月:ロカチンリマブの全臨床試験の中止を決定
2026年3月:代表取締役社長のアブドゥル・マリック氏がCEOを兼務(社長兼CEO体制へ)
2026年8月:ziftomenib(急性骨髄性白血病の治療薬)が日本で希少疾病用医薬品指定(患者の少ない病気の薬を国が指定し、開発を後押しする制度)を取得
出典: 協和キリン 会社概要、「当社の商号ならびに定款の一部変更、および本店所在地変更に関するお知らせ」(2018年7月31日)、支配株主等に関する事項について(2026年3月30日)
事業を理解する
グローバル戦略製品:クリースビータ(Crysvita)
クリースビータ(一般名: ブロスマブ/burosumab)は、FGF23(線維芽細胞増殖因子23。体内のリンの量を調節するホルモン)に対するモノクローナル抗体(特定の標的だけに結合するようにつくった抗体医薬)で、X染色体連鎖性低リン血症(XLH)をはじめとする希少骨疾患の治療に用いられます。
2018年の発売以来、適応拡大(使える病気や患者の範囲を広げること)と上市国(発売した国)の拡大を続けながら売上を伸ばしており、協和キリンのグローバル戦略の柱となっています。
クリースビータの2026年1〜9月累計の売上収益は1,715億円(前年同期比+16.9%)です。最大市場の北米は1,075億円(同+17%、現地通貨ベースでは+9%)と円安も追い風になりました。
2025年11月には日本で在宅自己注射をより簡便に行えるシリンジ型製剤を発売し、患者のQOL(生活の質)向上と処方拡大を図っています。希少疾患薬は競合が少なく薬価も高水準が維持されやすいため、安定的な収益基盤として機能しています。
出典: 協和キリン 2026年12月期第3四半期決算短信、2026年12月期第3四半期決算説明資料
パイプライン:ロカチンリマブ中止とziftomenibへの期待
ziftomenib(AML治療薬)
急性骨髄性白血病(AML。血液がんの一種)を対象とした経口のメニン阻害薬(がん細胞の増殖に関わるたんぱく質「メニン」の働きを妨げる飲み薬)で、クリースビータ後の次世代グローバル戦略製品の最有力候補です。
米国:FDA(米食品医薬品局)のブレークスルーセラピー指定(有望な新薬の開発・審査を早める制度)を経て、2025年11月に再発・難治性のNPM1変異を有する成人AMLを対象にFDAの正式承認を取得し、「KOMZIFTI」として発売済み
日本:2026年8月にNPM1変異またはKMT2A遺伝子再構成を有するAMLを対象に希少疾病用医薬品指定を取得
適応拡大:初発AMLの併用療法(KOMET-017 第Ⅲ相)など、適応拡大を進めています
米国の損益はKura Oncology社との提携で50:50に分け合います(プロフィットシェア)。2026年1〜9月累計はシェア後の損益がマイナスで、販売費及び一般管理費に計上しています。
ロカチンリマブ(全臨床試験を中止)
アトピー性皮膚炎治療薬として期待されていた抗OX40モノクローナル抗体です。2026年1月にAmgenから全世界の開発・商業化権を再取得して共同開発を終了し、続く2026年3月3日にすべての臨床試験の中止を公表しました。
中長期的には、パイプラインの充実が課題となっています。会社は中止によるコア営業利益への影響を次のように見込んでいます。
2026年:おおよそ+200〜300億円
2027年:おおよそ+300億円
2028年:おおよそ+100億円
2029年以降:一定のマイナス影響
出典: 協和キリン 2026年12月期第3四半期決算説明資料(2026年3月4日の説明会資料「Rocatinlimabに関する臨床試験の中止について」の再掲)
主要製品・パイプライン一覧
製品名 | 領域 | ステータス |
|---|---|---|
クリースビータ(burosumab) | 希少疾患(骨) | 上市・成長中 |
ポテリジオ(mogamulizumab) | がん(T細胞リンパ腫) | 上市 |
ziftomenib(KOMZIFTI) | がん(AML) | 米国で上市済(2025年11月FDA承認)/適応拡大試験中 |
ロカチンリマブ | 免疫(AD) | 全臨床試験を中止(2026年3月) |
tivozanib点眼薬(KHK4951) | 眼科(nAMD/DME) | 第Ⅱ相試験 実施中 |
OTL-203 | 希少疾患(ムコ多糖症I型) | ピボタル試験(第Ⅲ相相当)実施中 |
infigratinib(KK8398) | 希少疾患(軟骨無形成症) | 第Ⅲ相試験 実施中 |
OTL-200(Libmeldy/Lenmeldy) | 希少疾患(異染性白質ジストロフィー) | 欧米で上市済/日本で承認申請完了 |
中長期構想:2030年代前半に10以上の適応症でFDA承認
2026年2月にマリック社長(当時COO)が発表した中長期構想では、2030年代前半までに20以上の新規パイプラインと10以上の適応症(薬が使える病気)でのFDA承認を目標に掲げています。外部からの導入(他社の開発品の権利を得ること)・提携を積極化し、自社創薬とのバランスを取りながらパイプラインの厚みを増す戦略です。
出典: 協和キリン「Vision 2030 and Beyond:中長期構想」(2026年2月)
同業の第一三共(4568)やエーザイ(4523)と比べると規模は小さいが、希少疾患に特化した「小さくても強い」ファーマを目指すポジショニングが特徴的です。

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業績推移と財務分析
売上収益の推移
協和キリンの売上収益(売上高にあたる)はクリースビータの成長に牽引され、2020年12月期の3,184億円から2025年12月期は4,968億円へ約56%成長しました。
2026年12月期は5,200億円(前期比+4.7%)を予想します。1〜9月累計は3,849億円(前年同期比+10.2%)で通期予想の74%まで進み、会社は為替の後押しで年間計画を上回る可能性もあるとしながら、11月2日の第3四半期決算で予想を据え置きました。
売上収益の推移(億円)
当期利益・EPSの推移
当期利益は2023年12月期に812億円のピークを記録しました(欧州の既存品事業の合弁化に伴う一時的な収益148億円を含む)。2024年12月期は599億円(前期比26.3%減)に減少しました。要因は次のとおりです。
研究開発費の増加:ロカチンリマブの開発進展とOrchard Therapeutics社の新規連結で研究開発費が膨らみ、コア営業利益が微減しました
一時的な収益の剥落:前年の一時的な収益がなくなりました
費用と税負担の増加:事業構造改善費用や金融費用、税負担の増加も重なりました
2025年12月期は670億円へ回復し、2026年12月期は750億円(+11.9%)を見込みます。会社は5月7日、ロカチンリマブ中止で研究開発費などが減るとしてコア営業利益の予想を1,000億円から1,300億円に引き上げたが、臨床試験のクロージングコストなどがかかるため当期利益の予想は据え置きました。
2026年1〜9月累計の純利益は517億円(前年同期比+58.5%)で、通期予想に対する進捗率は68.9%です。クリースビータなどグローバル戦略品の伸長と技術収入の増加、ロカチンリマブの開発費の減少に円安の追い風も加わりました。
当期利益(億円)とEPS(円)の推移
配当の推移(10期連続増配へ)
協和キリンは2017年12月期以降、2026年12月期予想を含めて10期連続で増配を続けています。安定した配当成長は長期投資家にとっての魅力となっています。
2026年以降はDOE(株主資本配当率)4%以上かつ累進配当を基本とする方針に変更しており、2026年12月期は中間35円を実施し、年間70円(期末35円)の予想を11月2日の第3四半期決算でも据え置きました(会社予想のDOEは4.1%)。
1株あたり配当金の推移(円)
財務サマリー
指標 | 2023/12 | 2024/12 | 2025/12 | 2026/12予 |
|---|---|---|---|---|
売上収益(億円) | 4,422 | 4,956 | 4,968 | 5,200 |
コア営業利益(億円) | 968 | 954 | 1,031 | 1,300 |
当期利益(億円) | 812 | 599 | 670 | 750 |
EPS(円) | 151.03 | 113.06 | 128.07 | 143.27 |
1株配当(円) | 56 | 58 | 62 | 70 |
出典: 協和キリン 2026年12月期第3四半期決算短信、2026年12月期第3四半期決算説明資料、決算短信 補足資料(2026年12月期第3四半期)、2026年12月期第1四半期決算短信、2025年12月期決算説明資料、2024年12月期決算説明資料
投資家が注目すべきポイント
強み・成長ドライバー
1. クリースビータの高い参入障壁と北米成長
希少疾患薬であるクリースビータは競合品がほとんどなく、高い薬価を維持しやすい市場環境にあります。北米での売上拡大が続き、日本でも2025年11月のシリンジ製剤の発売で利便性が高まりました。FGF23に直接作用する初の治療薬として、安定的な成長が期待できます。
2. ziftomenibによるオンコロジー領域の強化
急性骨髄性白血病を対象としたメニン阻害薬ziftomenibは、FDAブレークスルーセラピー指定を経て2025年11月に米国で再発・難治性のNPM1変異AMLを対象に承認を取得し、「KOMZIFTI」として発売済みです。2026年8月には日本で希少疾病用医薬品指定を取得し、初発AMLの併用療法など適応拡大を進めています。ロカチンリマブの中止で、次のグローバル製品としての重みが増しました。
3. 10期連続増配へ、安定した株主還元
年間配当は25円(2016年12月期)から70円(2026年12月期予想)へ、2017年12月期以降、2026年12月期予想を含めて10期連続の増配となる予定です。2026年以降はDOE(株主資本配当率)4%以上かつ累進配当を基本とする方針に変更しており、2026年12月期の会社予想のDOEは4.1%です。
2026年11月2日終値2,481円(第3四半期決算の発表前)でPER 19.4倍(2025年12月期実績ベース)、配当利回り約2.8%(2026年12月期予想配当70円ベース)は、希少疾患特化のスペシャリティファーマとしてバランスの取れた水準です。
リスク・注意点
1. クリースビータへの過度な依存
グローバル売上の中でクリースビータの比重が大きく(2026年1〜9月累計で売上収益の約45%)、単一製品への依存度が高いです。収益の重しになりうるのは次の3つです。
薬価:日本の薬価基準引下げ(2026年4月実施)
特許切れ:物質特許が2032年(米国)〜2033年(欧州・日本)に切れた後は、バイオシミラー(バイオ医薬品の後続品)参入の影響を受ける可能性があります(投与方法の特許は2035年まで)
ロイヤルティの終了:AstraZenecaが販売するファセンラ(ベンラリズマブ)から受け取るロイヤルティ(製品の売上に応じて受け取る使用料。2025年は381億円)も、米国分が2028年5月に終わり、以降は地域ごとに終わっていきます(会社の中長期構想)
製品ポートフォリオの多角化が中長期的な課題です。
米国では2026年9月、特定の医薬品をメディケイド(低所得者向けの公的医療保険)の利用者に割引価格で提供する「GENEROUSモデル」への参加などで米国政府と合意し、医薬品関税(通商拡大法232条)の適用延期も取り付けました(詳細な条件は非公開)。
2. ロカチンリマブ中止で後期パイプラインに空白
アトピー性皮膚炎という大型市場向けのロカチンリマブを失ったことで、後期パイプライン(承認に近い段階の開発品)の層はziftomenibのほか次の3つに限られます。
OTL-203(ムコ多糖症I型):ピボタル試験
infigratinib(軟骨無形成症):第Ⅲ相
OTL-200(異染性白質ジストロフィー):日本で承認申請完了
tivozanib点眼薬は第Ⅱ相で、2026年9月に公表したnAMDの試験は主要評価項目(試験で最も重視する効果の指標)を達成しませんでした。
中長期構想で掲げる「20以上の新規パイプライン」の実現性が問われています。短期的にはR&D費(研究開発費)削減で利益が改善しても、長期的な成長の種を失うリスクがあります。
3. キリンHD子会社としてのガバナンス
キリンHDが議決権の約55%(2025年12月末)を持つ上場子会社であり、親子上場(親会社と子会社がそろって上場している状態)に伴う少数株主(親会社以外の株主)の利益の保護が常に議論の対象となります。
取締役の過半数を独立社外取締役が占め、取締役会議長も独立社外取締役が務めるものの、戦略的な意思決定が親会社の方針に左右されるリスクは残ります。
資金面でも、2025年12月末の現金及び現金同等物2,188億円のうち1,941億円は親会社への貸付金(貸付期間3か月以内)です。東証の親子上場に対するガバナンス強化の動きも注視が必要です。
出典: 協和キリン 2026年12月期第3四半期決算短信、2026年12月期第3四半期決算説明資料、ニュースリリース「米国政府との合意を発表」(2026年9月1日)、ニュースリリース「KHK4951の第2相国際臨床試験トップラインデータ報告」(2026年9月8日)、Vision 2030 and Beyond 中長期構想(ダイジェスト版)、2025年12月期決算説明資料、有価証券報告書 第103期(2025年12月期)
まとめ
協和キリンは、クリースビータを軸とした希少疾患特化型のグローバル・スペシャリティファーマとして独自のポジションを確立しています。2025年12月期にコア営業利益1,031億円の過去最高を更新し、2026年1〜9月累計も純利益58.5%増と好調です。
ロカチンリマブの開発中止はパイプラインの課題を浮き彫りにしたが、ziftomenibの臨床進捗と中長期構想(20以上の新規パイプライン・10以上の適応症でFDA承認)で次の成長の柱を構築しつつあります。
10期連続となる予定の増配とDOE4%以上・累進配当への方針変更が示す安定した株主還元と、マリックCEO率いるグローバル経営体制の進化が注目ポイントです。
業績:2025年12月期は売上収益4,968億円、コア営業利益1,031億円で過去最高を更新
足元の業績:2026年1〜9月累計の純利益は前年同期比+58.5%と大幅増益(クリースビータ好調・技術収入の増加・ロカチンリマブの開発費減少・円安。一時的な損益を含む)
次の柱:ziftomenibが日本で希少疾病用医薬品指定を取得、次世代グローバル製品の最有力候補に
株主還元:2026年12月期予想を含め10期連続増配の予定(年間70円予想。2026年以降はDOE4%以上・累進配当方針で、会社予想のDOEは4.1%)
株価指標:PER 19.4倍(2026年11月2日終値、実績ベース)、ROE(自己資本利益率)7.7%(2025年12月期)。希少疾患特化ファーマとしての安定成長を評価する局面
協和キリン
キリンホールディングス傘下のバイオ医薬品企業。抗体医薬技術を強みとし、腎・骨・血液・免疫領域を中心に医療用医薬品を研究開発・製造・販売する。X連鎖性低リン血症治療薬「クリースビータ」(burosumab)が北米・欧州でグローバル展開し主力製…









