ソフトバンクグループ(9984)の企業分析|NAV72兆円・OpenAIに累計546億ドル、孫正義が描くASI時代の覇権戦略
2027年3月期 第1四半期決算まで反映

ソフトバンクグループ(9984)は、Arm Holdings(約86%保有)とOpenAI(2026年10月の払込完了後に持分約13%となる見込み)を中核資産に据えた世界最大級のAI投資会社です。2026年3月期の純利益は5兆23億円と日本企業史上最高を記録。時価純資産(NAV)は2026年6月末時点で過去最大の72.3兆円に到達しました。
創業者の孫正義氏が掲げる「ASI(超知能)のNo.1プラットフォーマー」構想のもと、AIモデル(OpenAI)、AIチップ(Arm・Ampere)、フィジカルAI(ロボHD)、AIインフラの4本柱でAI時代の覇権を目指しています。この記事では、NAV構成と主要資産の評価、業績の構造、中長期の投資判断ポイントを個人投資家の視点から解説します。
会社概要 — AI投資で世界をリードする持株会社
ソフトバンクグループ(SBG)は1981年に孫正義氏が設立した持株会社です。1996年のヤフー株式会社(Yahoo! JAPAN)設立、2006年のボーダフォン日本法人買収、2013年のSprint買収と2020年のT-Mobileとの統合、そして2016年のArm Holdings買収(約3.3兆円)と投資戦略を転換してきました。現在は「戦略的投資持株会社」としてAI関連資産への集中投資を行っています。
項目 | 内容 |
|---|---|
会社名 | ソフトバンクグループ株式会社 |
証券コード | 9984(東証プライム) |
本社 | 東京都港区海岸一丁目7番1号 |
代表者 | 代表取締役 会長兼社長執行役員 孫 正義 |
従業員数 | 73,677名(連結、2026年3月31日現在。臨時従業員26,957名は外数) |
業種 | 情報・通信業(投資持株会社) |
決算期 | 3月 |
時価総額 | 36.1兆円(2026年9月18日終値6,315円、東証株価よりKabuGraph算出) |
NAV(時価純資産)の構成
SBGの企業価値を理解するうえで最も重要な指標がNAV(Net Asset Value=時価純資産)です。直近の2026年6月末時点のNAVは72.3兆円で、保有株式価値83.1兆円から純負債10.8兆円を差し引いた金額です。2026年3月末のNAV40.1兆円から3か月で約1.8倍に拡大しており、Arm株価の急騰が主因です(Armぶんの保有株式価値は19.15兆円→49.91兆円)。以下の円グラフは2026年6月末時点の保有株式価値の内訳です。
保有株式価値の構成(2026年6月末)
セグメント別売上高推移
ASI戦略の4本柱
SBGはASI(Artificial Super Intelligence=超知能)実現に向けた4つの事業柱を掲げています(出典:ソフトバンクグループ 2027年3月期Q1 決算説明会資料)。
柱 | 内容 | 主な投資先 |
|---|---|---|
AIモデル | 大規模言語モデル・ASI開発 | OpenAI(2026年10月の払込完了後に持分約13%の見込み) |
AIチップ | 半導体設計IP・クラウドCPU | Arm Holdings + Ampere Computing |
フィジカルAI | ロボティクス・自動運転 | ロボHD(ABBロボティクス事業を買収予定) |
AIインフラ | データセンター・エネルギー | SB Energy、SB Neo(米国でのネオクラウド事業、2026年7月設立) |
主要資産の分析 — ArmとOpenAIの企業価値
Arm Holdings — 世界のコンピューティングを支える半導体IP
Arm Holdingsは半導体の設計図(IP)をライセンスするビジネスモデルの企業です。世界のスマートフォンの99%がArmアーキテクチャを採用しており、データセンター向けArmベースCPUの累計出荷は15億コアを突破しています。SBGは約86%の持分を保有しており、2023年9月のNasdaqでの再上場後、AI需要の追い風を受けて株価は大きく上昇しました。
Armの2027年3月期Q1(2026年4-6月の3ヶ月)売上高は12.89億ドル(第1四半期として過去最高)で、特にデータセンター向けCPU「Neoverse」の成長が顕著です。AIの推論処理における電力効率の高さから、NVIDIAのGPUと組み合わせてデータセンターでの採用が加速しています。
OpenAI — 世界最大のAIモデル企業
SBGはOpenAIへ累計546億ドルを投資済みです(2026年8月時点)。2026年10月1日に予定される残り100億ドル(第3トランシェ)の払込が完了すると、累計646億ドル・持分約13%となる見込みです。
OpenAIの企業価値は、SBGが総額300億ドルの追加出資をコミットした2026年2月27日時点でプレマネー7,300億ドル、その後2026年3月31日に1,220億ドルの調達を完了し、ポストマネー評価額は8,520億ドルとなりました(Amazon 500億ドル、NVIDIA・SBGが各300億ドル)。2024年10月のラウンド1,570億ドルから約1年半で5倍超です。この評価益がSBGの2026年3月期純利益5兆円の大部分を構成しています。
なお2026年9月には、OpenAIがIPO前に1.2兆〜1.5兆ドルの評価額で資金調達を検討し投資家と初期協議に入ったとの報道(Bloombergほか)がありますが、会社が確認したものではなく未確定です。
ソフトバンク・ビジョン・ファンド(SVF)
SVF1(2017年設立、出資コミットメント総額986億ドル)は外部LPからの出資を含むファンドで、現在は投資回収フェーズに入っています。保有株式価値は3.6兆円(2026年6月末)。一方、SVF2はSBGの自己資金で運用されており、OpenAI投資が大半を占め、保有株式価値は19.3兆円(同)に達しています。
ソフトバンク(株)(国内通信事業)
上場子会社のソフトバンク(株)(9434)は、国内の通信事業・ヤフー・LINE・PayPayなどを展開する安定収益源です。SBGの保有株式価値は2.8兆円(2026年6月末)で、SBGの連結売上高の大部分はこの国内通信事業から生み出されています。
業績推移と財務分析
SBGの業績は保有資産の時価変動に大きく左右されるため、一般的な事業会社とは業績の読み方が根本的に異なります。営業利益は開示されておらず、純利益が+5兆円から-1.7兆円まで大きく振れるのが特徴です。
通期業績推移(売上高・純利益)
SVFの投資損益がSBG決算を支配する仕組み
SBGが採用するIFRS(国際会計基準)では、ビジョン・ファンド(SVF)が保有する株式の公正価値変動が、売却しなくても損益計算書にそのまま計上されます。上場株式は市場価格、未上場株式は直近の資金調達ラウンドの評価額等を基に毎四半期評価替えされるため、市場環境の変化によって数兆円規模の利益や損失が一気に発生します。上のチャートで純利益が+5兆円から-1.7兆円まで振れている主因も、このSVF投資損益です。
SVF1とSVF2で異なる会計処理
SVFには2つのファンドがあり、それぞれ連結P/Lへの影響の仕方が異なります。
SVF1 | SVF2 | |
|---|---|---|
運用資金 | 986億ドル(外部LP 655億ドル+SBG 331億ドル) | 1,432億ドル(全額SBG自己資金) |
SBG出資比率 | 約33% | 100% |
連結P/Lへの反映 | 投資損益は全額計上し、外部投資家帰属分を控除(純利益への影響はSBG持分ぶん) | 投資損益が全額直結 |
主な投資先 | Coupang、DiDi 等(回収フェーズ) | OpenAI(払込完了後に持分約13%の見込み)が大半 |
保有株式価値(2026年6月末) | 3.6兆円 | 19.3兆円 |
SVF1はサウジアラビアのPIF(公共投資基金)やアブダビのMubadalaなど外部投資家の出資を含みます。会計上は投資損益の全額がSVF事業のセグメント利益に計上され、外部投資家に帰属する分が「SVFの外部投資家持分の増減額」として控除されるため、純利益に残るのはSBGの取り分(出資比率約33%+成功報酬)ぶんです。一方、SVF2は100%自己資金のため、OpenAIの企業価値が変動すると、その損益がそのまま全額SBGの連結P/Lを直撃します。2026年3月期の純利益5兆円の大部分は、SVF2で保有するOpenAIの企業価値が同期中に3,000億ドル(2025年3月のラウンド)から8,520億ドル(2026年3月31日)へ拡大したことによる評価益です。
過去の決算変動とSVFの関係
SBGの純利益の振れ幅は、そのままSVFポートフォリオの市場評価の浮き沈みを映しています。2021年3月期(+4.99兆円)はSVF事業の投資利益4兆268億円が全体の約7割を占め、なかでもクーパンの未実現評価益2兆5,978億円とドアダッシュの6,611億円が効きました。続く2022年3月期〜2024年3月期の3期連続赤字は、世界的なテック株の下落と利上げによりSVF投資先の評価額が大幅に下がったためです。そして2026年3月期(+5.0兆円)はOpenAIの評価益がすべてを逆転させました。
つまり、SBGの決算は事実上「SVFポートフォリオの時価変動報告書」であり、通常の事業会社のように売上と費用から利益を予測するアプローチは通用しません。投資家がSBGの業績を評価する際には、純利益の絶対額よりも、NAVの増減とその内訳(どの資産の評価が動いたか)を見ることが重要です。
NAVとNAVディスカウントの推移
2026年6月末のNAVは72.3兆円(1株当たり12,686円)、LTV(純負債/保有株式価値)は13.0%です。ここで注意が必要なのは、NAVディスカウント率はNAVと時価総額の基準日を揃えないと数字が大きく変わることです。NAVの6割はArm1社で占められているため、四半期のあいだにもArm株価に連動して大きく動きます(出典:SBG SOTP(Sum of the Parts))。
基準日 | 時価総額 | NAV | ディスカウント率 |
|---|---|---|---|
2026年6月30日終値(5,963円) | 34.0兆円 | 72.3兆円(1株12,686円) | 53.0% |
2026年8月5日(SBG開示のプロフォーマ) | — | 58.3兆円(Armぶんが43.4→31.1兆円) | — |
2026年9月18日終値(6,315円) | 36.1兆円 | 同日のNAVは未開示(6月末は72.3兆円) | 6月末NAV基準で約50% |
SBG自身もQ1決算説明会資料で「NAVは足元で調整」と題し、2026年8月5日の株価・為替を当てたプロフォーマNAVを58.3兆円と開示しています。6月末の72.3兆円から2か月で14兆円縮んだ計算で、基準日を揃えたディスカウント率はおおむね50%前後です。いずれにせよ市場がSBGの保有資産を額面通りには評価していないことを示す数字ですが、NAVそのものが四半期内で大きく動く以上、古いNAVと足元の時価総額を掛け合わせた数字は実勢より過大に出ます。
2027年3月期Q1の状況
2027年3月期Q1(2026年4-6月の3ヶ月)は売上高2兆196億円(前年同期比+10.9%)ですが、親会社の所有者に帰属する四半期利益は3,473億円(前年同期比▲17.7%)と減益になりました。特にAIコンピューティング事業(Arm・Ampere等)のセグメント損失が2,008億円に拡大しており、AI投資が本格化するにつれて先行コストが膨らんでいます(出典:ソフトバンクグループ 2027年3月期第1四半期決算短信)。
決算発表後の資金調達(2026年8〜9月)
Q1決算の発表後、SBGはOpenAIへの第3トランシェ払込(100億ドル、2026年10月1日実行予定)を控えて大型の資金調達を相次いで実行しています。
日付 | 内容 |
|---|---|
2026年8月24日 | 第70回無担保普通社債(個人向け、7年債)1兆円の発行を決議。9月4日に利率 年4.75%で条件決定、9月7〜16日募集、9月17日払込。国内の個人向け社債として過去最大。資金使途は9月に償還を迎える社債4,000億円の償還とフィジカルAI等への投資 |
2026年9月9日 | OpenAI追加出資等に係るブリッジファシリティ(枠300億米ドル)の借入残高259億米ドル(約3兆9,819億円)を9月15日付で全額期限前返済すると決定。返済原資はマージンローン等による調達資金 |
2026年9月21日 | 米ドル建100億ドル+ユーロ建10億ユーロのシニア無担保債を起債(ドル建は3.5年・5.5年・7.5年、ユーロ建は4年・6年)。投機的等級のハイイールド債で、9月24日プライシング・9月29日決済予定。資金使途はOpenAI第3トランシェ100億ドル。完了すればアジア太平洋・日本の非金融事業債として過去最大 |
国内の個人向け社債がJCRのA格で年4.75%、一方でドル建てのシニア債は投機的等級での起債と、同じSBGでも調達手段によって市場の評価は分かれています。AI投資のスピードを維持するために有利子負債を積み増している局面であり、LTVと手元流動性の推移は次の四半期決算で確認したいところです。
投資家が注目すべきポイント
強み① ArmとOpenAIによるAIスタック全層カバー
SBGは半導体設計IP(Arm)→AIモデル(OpenAI)→インフラ(データセンター)→応用(ロボティクス)まで、AI技術スタックの全層にポジションを持つ世界でも例の少ない投資グループです。特にArm(スマートフォン99%、データセンターCPU急拡大)とOpenAI(ChatGPTの月間利用者10億人超)という2つの「プラットフォーム」を押さえている点は、独自のポジションと言えます。
強み② NAV72兆円・LTV13%の健全な財務基盤
2026年6月末のバランスシートはNAV72.3兆円、LTV13.0%、手元流動性2.3兆円です。LTVは3月末の17.0%から低下しましたが、これはArm株価の上昇で分母の保有株式価値が48.3兆円から83.1兆円へ膨らんだためで、SBGの財務方針である「平常時25%未満、異常時でも上限35%」に対しては十分な余裕があります。
一方で手元流動性は3月末の3.5兆円から2.3兆円へ3か月で1.2兆円減っており、OpenAIへの払込を控えて社債・マージンローンでの調達を積み増している局面でもあります。財務の安全性はArm株価という変動要因に支えられている点に注意が必要です。
強み③ 孫正義氏の投資実績とビジョン
Yahoo! JAPAN(1996年設立)、アリババ(2000年に約20億円を出資し、後に数兆円規模の価値に)、Arm(2016年に約3.3兆円で買収)と、孫正義氏は大きな技術トレンドの初期段階で大型投資を行い、巨額のリターンを実現してきた実績があります。OpenAIへの累計646億ドル(2026年10月の払込完了後)はこの延長線上にあり、企業価値が1年半で5倍超になったことは早くもその成果を示しています。
リスク① Arm・OpenAIへの極度の資産集中
2026年6月末時点で保有株式価値の約78%(Arm単独で60.0%)が2つのAI関連資産に集中しており、AI技術への投資テーマ自体が逆風に転じた場合、NAVが急速に縮小するリスクがあります。OpenAIは未上場企業のため流動性リスクもあり、評価額8,520億ドルが上場市場で維持される保証はありません。
リスク② 利益の質 — 実体キャッシュフローとの乖離
純利益5兆円の大部分は保有資産の評価益であり、配当可能なキャッシュフローではありません。国内通信事業が安定的なキャッシュフローを生んでいるものの、AIコンピューティング事業は2,008億円の赤字で、投資回収には数年以上を要する見通しです。
リスク③ 借入を伴う巨額のAI投資コミットメント
OpenAIへの投資は2026年10月の払込完了で累計646億ドル(約10兆円)となり、これにABBロボティクス事業の買収(53.75億ドル)やデータセンター・エネルギーへの投資が加わります。第3トランシェの原資は9月に起債した110億ドル相当のシニア無担保債で、国内の個人向け社債1兆円と合わせて調達は借入依存が強まっています。
ASI実現というビジョンは壮大ですが、技術的なブレイクスルーの不確実性、各国のAI規制強化リスク、競合(Google、Meta、Amazon等)との競争激化を考慮すると、投資回収の確実性は低いと言わざるを得ません。
まとめ
ソフトバンクグループは、Arm+OpenAIを両輪としたAI時代の最大級の「賭け」を行っている投資会社です。NAV72.3兆円・LTV13.0%(いずれも2026年6月末)という健全な財務基盤のもと、孫正義氏の投資実績に裏打ちされたAI全層投資戦略は、成功すれば日本企業として前例のない企業価値の創出につながる可能性を秘めています。
一方で、利益の大半が未実現の評価益であること、保有株式価値の約78%(2026年6月末)がArmとOpenAIの2資産に集中していること、借入に支えられた巨額のAI投資の回収見通しが不透明であることは、大きなリスク要因です。SBGへの投資はAI時代の到来に「賭ける」かどうかの判断であり、従来のバリュエーション指標では評価しにくい銘柄です。NAVディスカウント率とLTVを定期的にモニタリングしながら、AI投資の進捗を見守ることが重要です。
ソフトバンクグループ
ソフトバンクグループは、投資事業とテクノロジーを軸にしたグローバル企業です。「持株会社投資事業」「ソフトバンク・ビジョン・ファンド事業」「ソフトバンク事業」「AIコンピューティング事業」の4セグメントを展開しています。通信事業はソフトバンク…










