Laboro.AI(5586)の企業分析|BCG出身CEOが率いるオーダーメイドAI開発、博報堂提携と生成AI戦略の全容

Laboro.AI(5586)は、「すべての産業の新たな姿をつくる」をミッションに掲げ、企業ごとにオーダーメイドのAIソリューションを開発・実装する産業AI企業です。
2026年9月期の第3四半期累計(2025年10月〜2026年6月)では、売上高19.1億円(前年同期比+38.8%)、営業利益2.5億円(同+85.7%)と大幅な増収増益を達成しました。営業利益の伸び率が売上を大きく上回ったのは、前年同期に子会社の取得費用などがかさんでいた反動のためで、主力のカスタムAI事業の利益は+35.3%と売上並みの伸びです。通期業績予想も上方修正し、売上高25.8億円(前期比+35.7%)、営業利益3.8億円(同+98.6%)を見込んでいます(2026年8月13日開示)。
2026年9月28日には中期経営計画を公表し、2030年9月期に売上高105億円・営業利益21億円を目指すとしました。ただし初年度の2027年9月期は成長投資を増やすため、営業利益率は約11%と、今期予想の14.7%より下がる計画です。
この記事では、Laboro.AIのカスタムAI事業の仕組み、業績推移、中期経営計画、生成AI・AIエージェント戦略、博報堂との提携、投資判断のポイントを、個人投資家の視点からわかりやすく解説します。
この記事の内容(目次)
会社概要 — 元BCGプリンシパルのCEOが創業したAIベンチャー
Laboro.AIは、ボストンコンサルティンググループ(BCG)出身の椎橋徹夫氏が2016年に設立したAIソリューション企業です。椎橋氏はBCGで当時最年少のプリンシパルに昇進し、東京大学・松尾豊研究室の寄付講座ディレクターとして産学連携やデータサイエンス教育に携わったほか、PKSHA Technologyの立ち上げにも参画した経歴を持ちます。
項目 | 内容 |
|---|---|
会社名 | 株式会社Laboro.AI(Laboro.AI Inc.) |
証券コード | 5586(東証グロース) |
設立 | 2016年4月 |
上場 | 2023年7月(東証グロース) |
代表取締役CEO | 椎橋徹夫(元BCGプリンシパル) |
従業員数 | 100名(2025年9月期末時点、連結) |
本社 | 東京都中央区銀座 |
セクター | 情報・通信業 |
平均年収 | 968万円 |
「テクノロジーとビジネスを、つなぐ。」が原点
Laboro.AIの創業背景には、椎橋氏がBCGのコンサルティング現場で感じた「AI技術は進歩しているのに、ビジネスの現場ではほとんど活用されていない」という課題意識があります。BCGでヘルスケア・消費財・流通分野の戦略コンサルティングやビッグデータ活用を手がけ、東大・松尾研究室では企業との産学連携を担った経験から、「テクノロジーとビジネスの橋渡し」を事業の核に据えて起業しました。
社名の「Laboro」は、英語の“labor(労働)”の語源になったラテン語です。人の力だけで行われている労働を軽減・効率化し、成果を高められるAIを提供したいという思いを込め、研究所の「Labo」、協業の「Collaboration」の意味も重ねています。2022年には広告大手の博報堂と資本業務提携を締結し、マーケティング領域のAI活用を共同で推進する体制を構築しました。
事業紹介 — カスタムAIとシステム開発の2セグメント
Laboro.AIの事業は大きく「カスタムAIソリューション事業」と「システム開発事業」の2セグメントで構成されています。売上の98%以上を占めるカスタムAI事業が成長の中核です。
カスタムAIソリューション事業 — オーダーメイドのAI開発
Laboro.AIの主力事業は、顧客企業の経営課題に合わせて一からAIソリューションを設計・開発する「カスタムAI」です。画一的なパッケージ型AIでは対応が難しい個社固有の複雑な課題に対して、オーダーメイドで取り組む点が最大の特徴です。

同社が掲げるのは「バリューアップ型AIテーマ」というコンセプトです。AIの真価は、人の作業を単純に置き換える「効率化」ではなく、新製品・サービスの創出やビジネスモデルの根本的な変革といった「新しい価値の創出」にこそ発揮されるという考え方です。
この事業は、2つの柱で展開されています。
AI-ソリューションデザイン — AI開発ノウハウとビジネスコンサルティング力を融合した独自メソッド「ソリューションデザイン」を用いて、経営課題の分析からAIの設計・開発・実装までを一気通貫で提供
エージェントトランスフォーメーション — AIエージェントの活用を前提として、ビジネスプロセスそのものを再構築する支援。既存業務の延長ではなく、ゼロベースでAI前提の業務設計を行う
AIエージェント/生成AI領域への展開
生成AIの急速な普及を受け、Laboro.AIはAIエージェント/生成AI領域のカスタムAI開発を成長の軸に据えています。同社は「AI開発ベンダーではなく、ビジネス変革パートナー」を標榜し、単なるチャットボット導入ではなく、AIエージェントの活用を前提としたビジネスプロセスの再構築まで支援します。

また、自社サービスとして「未来リサーチ」を展開しています。生成AIで消費者の反応を擬似的に再現する「AIシミュレーション市場調査サービス」で、専任の「AIリサーチャー」が調査の設計から報告まで伴走します。ローソンやサッポロホールディングスとの共同検証を経てβ版のトライアル販売を始め、2026年8月の決算説明資料の時点で2件の受注・納品を終えています。中期経営計画では2027/9期を事業性の検証期間と位置づけ、売上は計画の数値に織り込んでいません。
プロジェクト事例は、EC・小売、製造、金融・保険、建設・土木、広告・マーケティング、自治体・公的機関など12の業界にわたり、累計400件以上の実績があります(Laboro.AI プロジェクト事例)。
システム開発事業 — 子会社CAGLAが担うシステム基盤・UI/UX開発
2つ目のセグメントであるシステム開発事業は、2025年4月に子会社化した株式会社CAGLAが手がけています。グラフデータベース(データ同士のつながりを扱うデータベース)の開発に強みを持ち、Laboro.AIが受託した案件で顧客向けのUI/UX開発を担当するなど、グループ内の連携が進んでいます。Laboro.AIのホームページに届いたシステム開発色の強い引き合いの受け皿にもなっています。2026/9期Q3累計の売上高は58百万円(うち外部顧客向けは27百万円、残りはグループ内の取引)と、まだ小規模です。
業績推移と財務分析 — 売上成長が加速、今期は利益率も回復の見通し
通期業績推移
Laboro.AIは2023年7月の上場以降、3期連続で増収を続けています。2026/9期の会社予想(上方修正後)では売上高25.8億円(前期比+35.7%)、営業利益3.8億円(同+98.6%)と、売上成長の加速に加えて利益率の改善が見込まれています。
通期業績推移(売上高・営業利益・営業利益率・売上高成長率)
注目すべきは営業利益率の推移です。営業利益率は15.0%(2023/9期)から12.1%、10.1%と2期続けて低下しました。ソリューションデザイナやエンジニアの採用・育成への先行投資に加え、2025/9期は子会社CAGLAの取得費用(約0.4億円)と、大型案件の売上の一部が翌期にずれ込んだことも響きました。
2026/9期は、生成AIの社内活用による生産性向上で当初計画より少ない人員増で売上目標を達成できる見込みとなり、営業利益率が14.7%まで回復する見通しです。ただし2027/9期は、中期経営計画で成長投資を増やすため、営業利益率は約11%に下がる計画です(後述)。
Q3累計の進捗と四半期推移
2026/9期Q3累計(2025年10月〜2026年6月)の実績は以下のとおりです。
項目 | Q3累計実績 | 通期予想 | 進捗率 |
|---|---|---|---|
売上高 | 19.1億円 | 25.8億円 | 74.1% |
営業利益 | 2.5億円 | 3.8億円 | 64.7% |
純利益 | 1.8億円 | 2.7億円 | 65.7% |
売上高の進捗率74.1%は、Q4(7月〜9月)に残り約6.7億円の売上が必要な計算です。決算短信によれば、Q3(4〜6月の3ヶ月)の売上はQ2と比べるとやや軟調でした。3月決算の顧客企業が多く年度初めに体制変更・人事異動が重なること、5月の大型連休でプロジェクトの稼働日数が減少したことが要因で、会社は「期初計画の通りの着地であり、事業は順調に進捗しております」と説明しています。
一方、営業利益の進捗率は64.7%にとどまります。通期予想を達成するには、Q4(7〜9月)の3ヶ月だけで約1.3億円の営業利益が必要です。Q3(3ヶ月)の約0.3億円の4倍近くで、2024/9期以降の四半期で最も多かった2025/9期Q1(3ヶ月で1.2億円)も上回る水準です。
この通期予想は2026年8月13日に上方修正されたものです(売上高は当初予想比+4%、営業利益は同+29%)。会社は、生成AIの活用で人員が計画より少なくて済み、人件費・採用研修費が期初計画を下回る見込みであることを前提にしています。達成できたかは11月に発表される見込みの本決算で確認できます。
セグメント別の構造
Q3累計のセグメント別業績を見ると、カスタムAIソリューション事業が売上18.8億円(前年同期比+37.6%)、セグメント営業利益2.5億円(同+35.3%)と堅調です。新規顧客はQ3累計で12社を獲得しており、既存顧客のDX投資需要も堅調に推移しています。
ただし、カスタムAI事業の利益率は13.2%で、前年同期(13.4%)とほぼ同じです。連結の営業利益(+85.7%)がこれより大きく伸びたのは、前年同期にシステム開発事業が子会社CAGLAの取得費用などで52百万円の赤字を出しており、その反動が加わったことによるものです。会社も決算説明資料で同じ理由を挙げています。
システム開発事業(子会社CAGLA)は売上58百万円(うち外部顧客向け27百万円)、営業損失4百万円でした。4〜6月に検収を迎える案件が少なかったためで、損失は前年同期の52百万円から大きく縮小しています。
財務基盤 — 自己資本比率90%、実質無借金
Laboro.AIの財務基盤は極めて健全です。Q3末時点で自己資本比率90.4%、現金及び預金23.2億円を保有。有利子負債は実質的にゼロで、総資産30.2億円のうち純資産が27.3億円を占めます。IPO時の資金調達が主な資金源であり、事業から安定的にキャッシュを創出できる収益体質が定着しています。配当は無配で、手元資金は成長投資に加え、M&A・出資にも積極的に振り向ける方針です(後述の中期経営計画)。
投資家が注目すべきポイント
成長ドライバー: エンタープライズDX投資の拡大
Laboro.AIの成長を支える最大の追い風は、日本企業のDX投資とAI導入需要の構造的な拡大です。ChatGPTの登場以降、生成AIやAIエージェントに対する企業の関心は急速に高まっており、幅広い業界で積極的なDX投資が続いています。決算短信でも「堅調な顧客のDX投資需要を捉え、営業活動が順調に進捗」と記載されており、市場環境の追い風が続いていることがうかがえます。
上方修正の背景 — 生成AIで少ない人員でも売上を伸ばせる見込みに
2026/9期の業績上方修正で注目すべきは、その背景にある「生成AIによる自社の業務生産性向上」です。決算短信によれば、プロジェクトを担うメンバーが積極的に生成AIを活用した結果、期初に想定していたほど人員を増やさなくても同じ売上を達成できる見込みとなりました。そのため、人件費・採用研修費が期初計画を下回る見込みです。
顧客にAIを売る企業が、自社でもAIで生産性を上げている点は評価できます。ただし、人件費が計画を下回るのは第4四半期(7〜9月)を含む通期の見通しです。Q3累計の実績ではカスタムAI事業の利益率は前年同期並みで、営業利益率の改善はまだ実績に表れていません。読む際には、次の2点にも注意が必要です。
採用の遅れも一因:決算説明資料では、人員数が通期計画に対して「ややビハインド」で、ソリューションデザイナは前四半期から3名減ったとしています。人件費が計画を下回るのは、生産性の向上だけが理由ではありません
生まれた余力は来期の投資に回す:中期経営計画では、2027/9期は売上高+44%に対して営業利益は+6%にとどまる計画です。当面は、売上の伸び以上に利益が伸びる展開を会社自身も見込んでいません
中期経営計画 — 2030/9期に売上105億円、来期は投資で利益率が低下
2026年9月28日、Laboro.AIは2027/9期〜2030/9期の中期経営計画を公表しました。これまでの「AI受託開発」から、AIエージェントの技術基盤と専門人材を組み合わせて提供するモデルへ移り、人員を増やすだけに頼らない成長を目指すとしています。
2027/9期(計画):売上高37.1億円(今期予想比+44%)、営業利益4.0億円(同+6%)、営業利益率約11%
2030/9期(目標):売上高105億円、営業利益21億円、営業利益率20%。今期予想からの年平均成長率は売上高42%、営業利益53%
主なKPI:プロジェクトを担うフロント人員を88名から205名へ、1人当たり売上を3,027万円から4,511万円へ(いずれも2026/9期→2030/9期)
2027/9期に利益率が下がるのは、技術基盤の開発、人材育成、「未来リサーチ」の営業、管理部門の強化に約2.2億円を投じるためです。会社は、この投資を除いた営業利益率は約17%で、今期を上回ると説明しています。
また、計画の売上高には、M&A・出資や「未来リサーチ」、先端モノづくり領域での海外展開などの効果は入っておらず、会社はこれらを上振れ要因(アップサイド)と位置づけています。一方で、そのための費用は計画に入っています。
資本戦略では、余剰資金をM&Aや、スタートアップ・上場企業への少数株主としての出資に積極的に投じる方針です。その先駆けとして、同じ9月28日にマテリアル・コンセプトへの約1億円の出資(発行済株式の4.5%)と業務提携を発表しました。同社は東北大学発のベンチャーで、半導体や太陽電池の配線に使う銅ペーストなどを開発・製造しています。材料の配合や製造工程にAIを導入し、そこで得た知見を自社の技術基盤に生かす狙いで、業績への影響は軽微としています(2026年9月28日開示)。会社は半導体などの「先端モノづくり」を今後の注力領域に位置づけ、9月には半導体の国際業界団体SEMIにも入会しています。
経営体制では、代表取締役COOの藤原弘将氏が2026年9月30日付で辞任し、CEOのもとで各執行役員(CXO)に権限を委ねる体制に移りました。会社は、業務の引き継ぎは完了しており事業計画への影響は軽微としています。
AI特化上場企業との比較
Laboro.AIの投資判断をする上で、同じくAIソリューションを提供する上場企業との比較が参考になります。
企業名 | 証券コード | 時価総額 | 売上高 | PER | 特徴 |
|---|---|---|---|---|---|
Laboro.AI | 5586 | 146億円 | 19億円 | 99.3倍 | カスタムAI開発 |
ABEJA | 5574 | 313億円 | 36億円 | 66.0倍 | AIプラットフォーム |
pluszero | 5132 | 146億円 | 15億円 | 39.1倍 | AIコンサル・開発 |
エクサウィザーズ | 4259 | 840億円 | 120億円 | 47.8倍 | SaaS型AI(exaBase) |
Laboro.AIのPER 99倍(2026年9月30日終値917円で計算)は、同業他社と比べて最も高い水準にあります。これは直近通期(2025/9期)のEPS 9.23円を基準に計算されたものであり、今期予想EPS 16.85円で計算すると予想PERは約54倍まで低下します。ただし、それでも成長期待を相応に織り込んだ水準であることに変わりはありません。中期経営計画では来期(2027/9期)の営業利益は+6%の計画で、利益の伸びで割高感が早く薄れる構図ではない点も押さえておく必要があります。
カスタムAIモデルの強みとスケーラビリティの課題
Laboro.AIのビジネスモデルの強みは、高い粗利率(Q3累計で68.2%)と深い顧客関係にあります。オーダーメイドで経営課題に寄り添うため、顧客のスイッチングコストは高く、プロジェクト継続率70%超を維持しています。
一方で、カスタム型ゆえのスケーラビリティの壁は意識すべきポイントです。プロジェクトの品質はソリューションデザイナの力量に依存し、人材の採用・育成が成長のボトルネックになりえます。エクサウィザーズのようにSaaS型プロダクト(exaBase)を持つ企業と比べると、限界費用が下がりにくい構造です。中期経営計画も、フロント人員を4年で2倍以上(88名→205名)に増やすことを前提にしています。
会社はこの課題に対し、AIエージェントの技術基盤を案件に標準で組み込み、技術基盤からの売上の比率を2030/9期に14%まで高めるとしています。この取り組みや「未来リサーチ」が人手に頼る構造をどこまで変えられるかが、中長期の注目点となります。
まとめ
Laboro.AIは、戦略コンサルティング出身のCEOが率いる、オーダーメイドAI開発に特化した成長企業です。パッケージ型AIでは解決できない個社固有の経営課題に対して、ビジネスコンサルティングとAI技術を融合した「ソリューションデザイン」で顧客の構造転換を支援しています。
2026/9期はQ3累計で売上39%増・営業利益86%増と好調です。ただし営業利益の伸びには前年同期の子会社取得費用の反動が含まれ、主力事業の利益率は前年並みです。生成AIの社内活用で人件費が計画を下回る見込みとなり通期予想を上方修正しましたが、利益率の改善は第4四半期に集中する計画です。
中期経営計画では2030/9期に売上高105億円・営業利益21億円を掲げる一方、2027/9期は投資を優先して営業利益率を約11%に下げる計画です。博報堂との資本業務提携、「未来リサーチ」、マテリアル・コンセプトへの出資に始まる資本戦略など、成長の種も増えつつあります。
投資判断においては、PER 99倍(2026年9月30日終値時点)という高バリュエーション、時価総額146億円の小型株ゆえの流動性リスク、プロジェクト型ビジネスの業績変動性を踏まえた上で、AI市場の構造的拡大とLaboro.AI固有の差別化要因(ソリューションデザイナ人材、70%超のプロジェクト継続率、博報堂との提携)を天秤にかける必要があります。11月の本決算で今期予想(営業利益3.8億円)を達成できたかに加え、中期経営計画どおりにフロント人員を増やし、売上を年40%前後のペースで伸ばせるかが、今後の株価を左右する鍵となるでしょう。










