日経平均PBRの推移|バブル5.6倍から東証改革1.8倍時代までの変遷と読み方

日経平均のPBR(株価純資産倍率)は、2026年9月時点で約1.86倍。バブル期に5.6倍まで膨張し、リーマン・ショック後には1倍を割り込み、2023年の東証改革を経て現在の水準に至っています。
この記事では、日経平均PBRの長期推移を振り返りながら、PBRが動く要因(ROE・BPSの変化)と、現在の水準が割高か割安かを読み解く方法を解説します。
この記事の内容(目次)
日経平均PBRとは何か
日経平均PBRは、日経平均株価を構成する225銘柄全体のPBR(株価÷1株あたり純資産)を加重平均した値です。日本の株式市場全体が純資産に対してどの程度の評価を受けているかを示し、市場全体の割高・割安を判断する際に広く参照されます。
PBRは以下の式でも表現できます。
つまり、PBRは企業の収益力(ROE)と市場の評価(PER)の掛け算です。PBRが上がるには、ROEが上がるか、PERが上がるか、その両方が必要です。この分解が、後述する日経平均PBRの長期推移を読み解く鍵になります。
日経平均PBRの長期推移
日経平均PBRの推移を年代ごとに振り返ります。各時期のPBR水準は、日本経済の構造変化と密接に連動しています。公式データ(日本経済新聞社「日経平均プロフィル」)は2004年10月以降のため、グラフはそこから始めています。
日経平均PBRの推移(加重平均ベース、2004年末〜2026年9月)
バブル期(1989年):PBR 5.6倍
1989年12月29日、日経平均株価が史上最高値の38,915円をつけた時点で、PBRは5.6倍、PERは60.9倍に達しました(株探ニュース)。企業の純資産の5倍以上の値段で株が売買されていたことになり、バブルの過熱ぶりを如実に表しています。当時の日本企業のROEが特段高かったわけではなく、PERが異常に高騰したことでPBRも押し上げられた形です。
バブル崩壊〜デフレ期(1990年代〜2000年代):2倍前後まで低下
バブル崩壊後、PBRは大きく低下しましたが、1990年代の値を示す公式データはありません。公式データの起点となる2004年末は1.74倍、2005年末は2.48倍、2006年末2.12倍、2007年末1.74倍と、リーマン・ショック前は2倍前後で推移しました(日経平均プロフィル)。不良債権処理・企業のバランスシート調整が続く中でROEが低迷し、バブル期の水準には遠く及びません。
リーマン・ショック(2008〜2009年):2004年以降で初の1倍割れ
2008年10月、リーマン・ショックにより日経平均PBRは日経のデータが遡れる2004年以降で初めて1倍を割り込みました(日経平均プロフィルの日次投資指標は2004年9月30日以降のみ収録、ユーザーズ・ガイド)。PBR 1倍は「企業を解散した方が株主にとって得」という水準であり、市場が極度に悲観的になったことを意味します。この1倍割れは2009年4月28日まで103営業日続きました(三井住友DSアセットマネジメント)。
欧州債務危機(2011〜2012年):長期の1倍割れ
欧州債務危機と東日本大震災の影響が重なった2011年8月から、PBRは再び1倍を割り込みました。2011年8月〜2012年2月(117営業日)と2012年5月〜12月(150営業日)の2回にわたり長期間のPBR 1倍割れが続いたのがこの時期の特徴です。2012年12月のアベノミクス開始まで、日本株市場は純資産割れの状態に据え置かれていました。
アベノミクス〜コロナ前(2013〜2019年):1.0〜1.5倍のレンジ
金融緩和と企業統治改革(コーポレートガバナンス・コード導入など)を背景に、PBRは1.0〜1.5倍のレンジに回復しました。ただし、2016年2月と2018年12月にはPBR 0.99倍まで低下するなど、1倍近辺が下値として繰り返し意識される相場が続きました。PBR 1倍が事実上の「底値」として機能していた時期です。2013〜2019年の日次平均は1.26倍でした(日経平均プロフィルよりKabuGraph算出)。
コロナ・ショック(2020年):リーマン後で最も深い1倍割れ
2020年3月6日、新型コロナウイルスの感染拡大でPBRは再び1倍を割り込み、5月18日まで47営業日続きました。最低は3月16日の0.82倍で、リーマン・ショック時の0.81倍(2009年3月9日)に次ぐ深さです(日経平均プロフィルの日次データよりKabuGraph集計)。リーマン・ショック(103営業日)や欧州債務危機(117・150営業日)より短く、2ヶ月余りで1倍を回復し、年末には1.21倍まで戻しました。
東証改革以降(2023年〜現在):1.3倍から1.9倍へ切り上がり
2023年3月、東京証券取引所がプライム市場・スタンダード市場の上場企業に対し「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」を要請しました。当時、プライム市場の約半数がPBR 1倍割れという状態でした(日本経済新聞)。この要請を契機に自社株買い・増配・事業ポートフォリオ見直しなどが加速し、日経平均PBRは年末ベースで2023年1.30倍→2024年1.47倍→2025年1.69倍と切り上がり、2026年6月22日には2.00倍を付けました(9月11日時点は1.86倍、日経平均プロフィル)。ただし2024年8月5日と2025年4月7日にはいずれも1.15倍まで下げる局面があり、上昇は一本調子ではありません。
PBR 1倍割れが起きた局面の一覧
日経平均PBRが1倍を割り込んだ局面は、公式データのある2004年10月以降で6回あります。いずれも金融危機や世界的なリスクオフ局面です。
期間 | 営業日数 | 最低PBR | 背景 |
|---|---|---|---|
2008/10/10〜2009/4/28 | 103日 | 0.81倍(2009/3/9) | リーマン・ショック |
2011/8/9〜2012/2/7 | 117日 | 0.90倍(2011/11/24) | 欧州債務危機・東日本大震災 |
2012/5/7〜2012/12/11 | 150日 | 0.87倍(2012/6/4) | 欧州債務危機 |
2016/2/12 | 1日 | 0.99倍 | 中国景気減速・原油安 |
2018/12/25 | 1日 | 0.99倍 | 米中貿易摩擦 |
2020/3/6〜2020/5/18 | 47日 | 0.82倍(2020/3/16) | コロナ・ショック |
1倍割れの長さは危機の性質で分かれます。金融危機が原因のリーマン・ショックと欧州債務危機は100営業日以上、コロナ・ショックは47営業日続き、景気先行き不安が主因の2016年・2018年は1日で反発しました。PBR 1倍は解散価値であり、長期投資家にとって「それ以上下がりにくい水準」として機能しやすいことが歴史的に裏付けられています。
PBRを動かす2つの要因:ROEとBPS
日経平均PBRの変動を正しく読み解くには、PBRが何によって動くかを理解する必要があります。PBRは以下の2つの要因で変動します。
要因① ROE(自己資本利益率)
PBR = ROE × PERの関係から、ROEが高い市場ほどPBRも高く評価されます。マネックス証券の分析(2004年6月〜2025年11月のデータ)によれば、ROEが1%上昇するとPBRは約0.38倍上昇するという高い相関関係が確認されています(決定係数R²=0.87)(マネックス証券)。
特にROE 8%が重要な分岐点です。ROEが8%を超える局面では株価の上昇トレンドが鮮明になりPBRが拡大する一方、8%を下回るとPBR 1倍(解散価値)が強く意識される傾向があります。現在の日経平均の予想ROEは約9.5%であり、8%の閾値を明確に上回っています。
要因② BPS(1株あたり純資産)
PBR = 株価 ÷ BPSなので、分母であるBPSが増えれば同じ株価でもPBRは下がります。2010年代以降、日本企業のBPSは利益の内部留保によって年々積み上がっています。BPSの増加は「PBR 1倍に相当する株価水準」を押し上げる効果があります。つまり、株価が横ばいでもBPSが増えればPBRは下がりますが、逆に言えばPBR 1倍の「底値」は年々切り上がっています。
東証「PBR 1倍割れ改善要請」の影響
2023年3月の東証要請は、日経平均PBRの水準に大きな影響を与えました。この要請の背景と効果を整理します。
要請の背景
2023年3月時点で、東証プライム市場の約半数、スタンダード市場の約6割がROE 8%未満・PBR 1倍割れの状態にありました(東証「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応について」)。欧米の主要市場ではPBR 1倍割れの企業は少数派であり、日本市場の際立った特徴でした。その根本原因はROE(自己資本利益率)の低さにあります。タナベコンサルティングも、上場企業の半数以上がPBR 1倍割れ・ROE 8%未満という現状を踏まえ、日本企業は欧米企業に比べてROEが低い傾向にあると指摘しています。
要請後の企業行動の変化
東証の要請を受けて、上場企業は以下のような施策を加速させました。
自社株買いの拡大:自社株買いで自己資本を縮小しROEを改善、PBR = ROE × PER の関係を通じてPBR向上を図る
増配・累進配当方針の導入:株主還元を強化し市場の評価を引き上げる
政策保有株式の売却:資本効率を阻害する持ち合い株を減らしROEを改善する
事業ポートフォリオの見直し:低収益事業の売却・撤退により資本効率を高める
これらの動きを受けて日経平均PBRは年末ベースで2024年1.47倍、2025年1.69倍と上昇し、2026年6月22日には2.00倍を付けました(日経平均プロフィル)。ただし日経新聞は「PBR改善は踊り場」と報じており、還元強化による一時的なPBR上昇と、本業の「稼ぐ力」向上による持続的なPBR上昇は区別が必要です(日本経済新聞 2025年3月)。
現在の日経平均PBRの読み方
2026年9月時点の日経平均PBRは加重平均で1.86倍です(stock-marketdata.com)。この水準をどう評価すべきか、複数の視点で整理します。
歴史的な位置づけ
バブル期の5.6倍と比べれば大幅に低い一方、2010年代(年末ベースで0.9〜1.5倍)からは明確に切り上がっています。公式データがある2004年10月以降の日次平均は1.37倍(KabuGraph算出)で、現在の1.86倍はこれを3割以上上回りますが、ROEの向上を伴った上昇であれば妥当な評価とも言えます。
PBROEモデルによる理論値との比較
マネックス証券のPBROEモデルでは、2026年度の予想ROE 9.49%に対する理論PBRは1.57倍と算出されています(マネックス証券)。実際のPBR 1.86倍は理論値を約2割上回っており、市場が今後のROE改善を先取りして織り込んでいると解釈できます。逆に、ROEの改善が期待に届かなければPBRの調整圧力がかかる可能性もあります。
海外市場との比較
米国のMSCI USA指数のPBRは約5.7倍、欧州のMSCI Europe指数は約2.5倍です(2026年8月31日時点、MSCIファクトシート:MSCI USA・MSCI Europe)。日経平均の1.86倍は先進国市場の中では依然として低い水準であり、ROEの改善余地が残っている限り、PBRにも上昇余地があるという見方もあります。ただし、産業構造の違い(日本は製造業比率が高く、米国はテクノロジー企業比率が高い)が根底にあるため、単純な水準比較には限界があります。
投資判断への活かし方
日経平均PBRを投資判断に活用する際のポイントを整理します。
PBR 1倍近辺は長期投資の好機になりやすい
過去の実績を見ると、日経平均PBRが1倍近辺まで下がった局面は、その後の中長期リターンが高い傾向があります。2009年、2012年、2016年、2018年、2020年のいずれも、PBR 1倍割れから1年以内に株価が大幅に反発しました。ただし「1倍を割ったらすぐ買い」ではなく、金融危機の場合はさらに下落・長期化することがあるため、一括投資より分散投資が現実的です。
ROEのトレンドと合わせて見る
PBRが上昇してもROEが伴っていなければ、一時的な期待先行の可能性があります。逆に、ROEが上昇トレンドにある中でPBRが横ばいなら、市場がまだ織り込んでいない割安状態かもしれません。PBR単体ではなく、ROEとセットで見ることが重要です。
個別銘柄のPBRへの示唆
日経平均全体のPBRが1.86倍であるとき、PBR 1倍割れの個別銘柄は「市場平均の半分以下の評価」を受けていることになります。これが合理的な評価(低ROE)なのか、見落とされている割安銘柄なのかを見極めるのが個別株投資の出発点です。PBRの基本的な仕組みや個別銘柄での見方については、以下の記事で詳しく解説しています。

PBR(株価純資産倍率)とは|1倍割れ問題と東証改革の核心
PBR(Price Book-value Ratio)の計算式・目安・1倍割れ問題を解説。東証が改善を要請した背景と、PERやROEとの関係から投資判断に活かす方法がわかります。
まとめ
日経平均PBRの推移を振り返ると、以下のポイントが浮かび上がります。
バブル期の5.6倍は異常値:PERの過熱が主因であり、再現性のない水準
PBR 1倍は下値の目安:2008年以降6回の1倍割れは、いずれも底値として機能してきた
東証改革でPBRの水準が切り上がった:資本効率改善の動きは一過性ではなく構造的な変化
PBR = ROE × PER:PBRの動きはROE(稼ぐ力)とPER(市場の期待)に分解して読む
現在の1.86倍は2004年以降の平均1.37倍を上回るが先進国では低水準:ROE改善の持続性が今後のPBR水準を左右する

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