LBO(レバレッジドバイアウト)とは|買収対象の信用力で資金を調達するM&A手法

LBO(Leveraged Buyout・レバレッジドバイアウト)は、買収対象企業の資産やキャッシュフローを担保に借入を行い、少ない自己資金で大規模な買収を実現するM&A手法です。「レバレッジ(てこ)」の名のとおり、借入金というてこを使って自己資金の何倍もの買収を可能にします。
2006年のソフトバンクによるボーダフォン買収(約1.75兆円)、2018年のベインキャピタルによる東芝メモリ買収(約2兆円)など、日本でも数千億〜兆円規模のLBOが実行されてきました。近年はPEファンドの存在感が高まり、大型MBOの資金調達手段としてもLBOは不可欠な位置づけにあります。本記事では、LBOの仕組み・資金構造・メリットとリスク・日本の代表的事例をわかりやすく解説します。
この記事の内容(目次)
LBOの仕組み——4つのステップ
LBOでは、買い手(スポンサー)が直接買収するのではなく、特別目的会社(SPC)を器として設立し、そのSPCが借入と買収の主体になる点に特徴があります。全体の流れは4段階に整理できます。
STEP 1:SPC(特別目的会社)の設立
スポンサー(PEファンドや事業会社)が買収の受け皿となるSPCを設立します。SPCは買収専用のペーパーカンパニーで、実質的な事業活動は行いません。
STEP 2:資金調達(LBOファイナンス)
SPCがスポンサーからのエクイティ出資と、金融機関からのLBOローンによって買収資金を調達します。LBOローンの担保は買収対象企業の資産・キャッシュフローであり、スポンサー自身は返済義務を負わない(ノンリコース型)のが通常のコーポレートローンとの最大の違いです。
STEP 3:対象企業の買収
SPCが調達した資金で対象企業の株式を取得します。上場企業の場合はTOB(株式公開買付)を実施し、全株式の取得を目指します。
STEP 4:SPCと対象企業の合併
買収完了後、SPCと対象企業を合併させます。この合併により、LBOローンの返済義務が対象企業に移転するのがLBOの核心です。対象企業は自らの事業キャッシュフローで借入金を返済していくことになります。
LBOの資金構造——シニア・メザニン・エクイティ
LBOの買収資金は、返済の優先順位が異なる3つの層で構成されます。返済順位が高い(リスクが低い)ほど金利が低く、返済順位が低い(リスクが高い)ほど金利が高いという関係にあります。
層 | 調達手段 | 典型的な比率 | 返済順位 | 金利水準 |
|---|---|---|---|---|
シニアローン | 銀行融資(有担保) | 50〜60% | 最優先 | 低い |
メザニン | 劣後ローン・優先株式 | 10〜20% | 中間 | 中〜高い |
エクイティ | スポンサーの自己資金 | 30〜40% | 最劣後 | (配当・キャピタルゲイン) |
シニアローン
買収資金の中核をなす銀行融資です。対象企業の資産(不動産、売掛金、在庫等)を担保に設定し、返済が最優先されるため金利は最も低くなります。返済期間は5〜7年が一般的で、期限前返済(キャッシュスイープ)が求められることもあります。
メザニン(中間層)
「メザニン(mezzanine)」は語源がイタリア語の mezzanino(中二階)で、シニアローンとエクイティの間に位置する資金調達手段です。劣後ローン(シニアローンより返済順位が低い融資)や優先株式の形を取ります。シニアローンだけでは買収資金に届かない場合のギャップを埋める役割を果たし、リスクに見合った高い金利が設定されます。
エクイティ(自己資本)
スポンサーが拠出する自己資金部分です。返済順位は最も低く、事業が失敗した場合は出資額を失うリスクがありますが、成功すれば借入のレバレッジ効果により高いリターンを得られます。典型的には買収総額の30〜40%を占め、残りをシニアローンとメザニンで調達します。
LBOのメリットとデメリット
LBOには、関係者ごとに異なるメリットとリスクがあります。
買い手(スポンサー)にとってのメリット
少ない自己資金で大型買収が可能:エクイティ30〜40%の拠出で、その約2.5〜3倍強の規模の企業を買収できます
高い投資リターン(IRR):借入のレバレッジ効果により、企業価値が上昇した場合のエクイティリターンが増幅されます
リスクの限定(ノンリコース):スポンサー本体は返済義務を負わないため、最悪の場合でもエクイティ出資額が損失の上限となります
売り手(株主)にとってのメリット
プレミアム付きでの売却:LBOによる買収はTOBを伴うことが多く、市場価格に30〜50%のプレミアムが上乗せされるのが一般的です
買い手の資金力に依存しない:対象企業自身の信用力で資金調達できるため、買い手候補の幅が広がり、売却機会が増えます
対象企業にとってのデメリット・リスク
多額の有利子負債を背負う:SPC合併後、対象企業のバランスシートに買収のための借入金が計上されます。財務の健全性が大幅に悪化し、信用格付の引き下げにつながることがあります
コベナンツによる経営制約:LBOローンの財務制限条項により、設備投資や追加借入、配当支払いなどに制限がかかります。成長に必要な投資が抑制されるリスクがあります
業績悪化時の連鎖リスク:事業環境の悪化でキャッシュフローが減少すると、ローン返済が滞り、コベナンツ違反 → 期限の利益喪失 → 経営破綻という連鎖に陥る可能性があります
節税効果の裏側:LBOローンの支払利息は損金算入でき、法人税の圧縮に寄与します。しかしこれは裏を返せば、その分だけ利息負担が重いことを意味します
MBO・EBOとの違い
LBOと混同されやすい用語に、MBO(Management Buyout)とEBO(Employee Buyout)があります。これらは「誰が買うか」の違いであり、LBOは「どうやって資金を調達するか」の手法です。
LBO | MBO | EBO | |
|---|---|---|---|
買い手 | PEファンド等の第三者 | 現経営陣 | 従業員 |
目的 | 投資リターン(売却益) | 経営の独立・非公開化 | 事業承継 |
LBOとの関係 | 手法そのもの | 資金調達にLBOを利用 | 資金調達にLBOを利用 |
MBOでは経営陣自身に買収資金がないため、PEファンドと組んでLBO方式で資金を調達するケースが大半です。一方、2023年の大正製薬ホールディングスのMBO(約7,100億円)のように、PEファンドを入れずに創業家がスポンサーとなった例もあります。買収資金は三井住友銀行からの借入で賄い、担保には対象会社が持つ子会社株式などを充てるLBOの形でした(大正製薬HD MBOの実施及び応募の推奨に関するお知らせ 2023年11月24日)。

MBO(マネジメント・バイアウト)とは|大正製薬7,100億円の事例に学ぶ仕組みと株主の選択肢
MBO(経営陣による買収)の仕組み・手続きの流れ・プレミアムの目安を解説。大正製薬やベネッセの事例、株主がとれる3つの選択肢、2025年施行の東証新ルールまで投資判断に必要な情報を網羅します。
日本の代表的なLBO事例
日本では2000年代以降、PEファンドの活動拡大とともにLBOの大型案件が増えてきました。代表的な事例を紹介します。
ソフトバンク × ボーダフォン日本法人(2006年)
2006年、ソフトバンク(現ソフトバンクグループ)は英ボーダフォンの日本法人を約1兆7,500億円で買収しました。日本のLBO史上最大級の案件です。買収資金の大部分をLBOローンで調達し、携帯電話事業の安定したキャッシュフローを返済原資としました。通信事業は長期契約で毎月安定した収入が見込めるため、LBOの適性が高い業種です。ソフトバンクはこの買収で携帯電話市場に本格参入し、iPhoneの独占販売権獲得などで急成長を遂げました。
ベインキャピタル × 東芝メモリ(2018年)
2018年、ベインキャピタルを中心とする企業連合が東芝のメモリ事業を約2兆円で買収しました。受け皿はベインを軸とする企業連合が組成したSPC「Pangea」で、買収資金は次のように集められました。
ベインキャピタルの出資:約2,120億円(普通株)
SKハイニックスの融資:約3,950億円(ベインのSPC向け。転換社債を含む)
東芝の再出資:約3,505億円
HOYAの出資:約270億円
米アップルなど4社の優先株:約4,155億円(議決権なし)
銀行借入(LBOローン):約6,000億円
出典:東芝 東芝メモリ株式会社の株式譲渡完了及び特定子会社の異動に関するお知らせ 2018年6月1日、ベインキャピタル 2017年10月5日会見(東京商工リサーチ)よりKabuGraph作成
議決権はベイン側のSPCが49.9%、東芝が40.2%、HOYAが9.9%で、日本勢(東芝+HOYA)が過半の50.1%を確保しつつ、ベインキャピタルが経営を主導する枠組みです。約2兆円の買収総額のうち、ベイン自身の出資は約1割にとどまります。
買収後、東芝メモリは2019年に「キオクシア」へ改称し、2024年12月に東証プライム市場に上場しました。ベインは2025年11月以降、海外の機関投資家へのブロックトレードなど市場外の取引で段階的に持株を売り、2026年7月には自らの持株を全て売り終えたと明らかにしました(ブルームバーグ 2026年7月)。売却益は約2.5兆円で、PEファンドの国内案件で過去最大と報じられています(日本経済新聞 2026年7月26日)。
ベイン自身の出資約2,120億円(SKハイニックスの融資を含むベイン側SPCへの拠出は約6,070億円)に対する巨額のリターンは、LBOのレバレッジ効果の威力を象徴しています。
すかいらーくのMBO → ベインキャピタル → 再上場(2006〜2014年)
外食大手すかいらーく(現すかいらーくホールディングス)は、2006年に野村プリンシパル・ファイナンスとCVCキャピタル・パートナーズによるMBO(総額約2,700億円)で上場廃止しました。LBOにより買収後のすかいらーくは約2,200億円の有利子負債を抱え、その後の業績悪化で経営が苦しくなりました。
2011年にベインキャピタルが全株式を取得し、財務リストラと店舗網の再構築を経て、2014年10月に東証一部へ再上場(時価総額約2,219億円)しました(日本経済新聞 2014年10月9日)。LBOによる過剰負債が経営を圧迫した局面がある一方、PEファンドによるバリューアップを経て再上場に至った、LBOの光と影の両面が見える事例です。
リップルウッド × 日本テレコム(2003年)
2003年、米リップルウッド・ホールディングスは日本テレコムホールディングス(当時ボーダフォン傘下)から日本テレコムの固定通信事業を約2,613億円で買収しました。自ら経営陣を送り込んでコスト構造を改善し、翌2004年にソフトバンクに売却して利益を得ました。ボーダフォンが携帯電話事業に集中するために手放した固定通信事業を、法人向け長期契約という安定キャッシュフローを担保にLBOで取得し、短期間でバリューアップして転売した教科書的な事例です。
【失敗例】ダイセン × さとうベネック(2012年)
LBOには失敗事例もあります。2012年2月、福岡・中洲や東京・銀座に料飲ビルを持つ不動産会社ダイセンビルディングが、企業再生ファンドのネクスト・キャピタル・パートナーズから大分の建設会社さとうベネックをLBOで買収しましたが、約半年後の同年9月に民事再生法の適用を申請しました(翌10月に再生手続きが廃止され、破産に移行)。
2012年2月:ダイセンが買収資金約13億円を短期のつなぎ融資で調達し、さとうベネックの全株式を取得
2012年4〜5月:ダイセンがつなぎ融資を返済。原資にさとうベネックの資金を充て、同社の運転資金が細る
2012年5〜7月:メインバンクの大分銀行が融資を引き揚げ、社長を含む幹部が相次いで退任・退職
2012年9月:民事再生法の適用を申請
出典:東京商工リサーチ「こうして倒産した」2012年9月度、JC-NET 2012年9月よりKabuGraph作成
さとうベネック自体は利益を出し、借入金もほとんどない会社でした。短期の資金で買収し、その返済に対象会社の資金を充てるという返済原資の設計の誤りが、健全な会社の資金繰りを一気に行き詰まらせた教訓的な事例です。

PEファンドとは|GP・LP構造からバリューアップ、日本の大型案件まで解説
PEファンド(プライベート・エクイティ・ファンド)の仕組み・種類・投資手法を解説。GP/LP構造、LBO、バリューアップの100日プラン、東芝・すかいらーくなど日本の代表的事例を紹介します。
LBOに向いている企業の特徴
LBOの成否は「対象企業のキャッシュフローで借入金を返済できるか」にかかっています。金融機関がLBOローンの審査で重視するのは、安定的かつ予測可能なキャッシュフローです。
LBOに向いている企業 | LBOに向かない企業 |
|---|---|
安定的なキャッシュフロー(通信、インフラ、食品等) | 業績の振れ幅が大きい(スタートアップ、資源等) |
担保となる有形資産(不動産、設備等)を保有 | 資産が少ない(IT、コンサル等の軽量ビジネスモデル) |
既存の有利子負債が少ない | すでに有利子負債が多い |
コスト削減や業務改善の余地が大きい | すでに効率化が進んでおり改善余地が少ない |
市場で過小評価されている(PBR1倍割れ等) | すでに高いバリュエーションで取引されている |
ソフトバンクによるボーダフォン買収は、月額課金の通信事業という安定キャッシュフローがLBOの返済原資として機能した好例です。逆に、さとうベネックの例は、対象企業に利益が出ていても、短期のつなぎ資金で買収して対象企業の手元資金で返すような設計では運転資金が尽きることを示しています。返済原資の設計を誤ったLBOは、企業の特徴にかかわらず破綻しうるということです。
投資家がLBOニュースを読むときのポイント
LBOの発表は株価に大きな影響を与えます。上場企業がLBOの対象になった場合、個人投資家が確認すべきポイントを整理します。
TOBの価格とプレミアム
LBOによる非公開化はTOBを伴います。TOB価格が直近株価に対してどれだけのプレミアムを含んでいるかが、株主にとっての最大の関心事です。プレミアムが低すぎる場合は、TOBに応募せず市場で売却する選択肢も検討する必要があります。
スクイーズアウトの可能性
TOB後に買い手が議決権の90%以上を持てば株式等売渡請求(会社法179条)で、3分の2以上なら株式併合(同180条。株主総会の特別決議が必要)で、残りの少数株主の株式は強制的に取得(スクイーズアウト)されるのが一般的です。LBO・MBOのTOBは株式併合を見込んで買付予定数の下限を3分の2前後に置くことが多く、大正製薬HDのMBOも下限を66.57%に設定していました。
スクイーズアウトの対価はTOB価格と同額が通例なので、最終的な受取額はTOBに応じた場合と変わらないケースが多いです。違いは代金を受け取る時期です。
TOBに応募した場合:買付期間が終わってから数営業日で代金が支払われる
応募せずに持ち続けた場合:上場廃止までは市場で売れるが、上場廃止から代金を受け取るまで(株式併合なら効力発生から数か月)は資金が拘束される
資金を早く手元に戻したい投資家は、TOBに応募するか、上場廃止までに市場で売るのが合理的です。
上場廃止のスケジュール
LBOによる完全子会社化が決まると上場廃止となります。TOBの買付期間は法定で20〜60営業日(金融商品取引法27条の2第2項)で、大型案件では30〜40営業日に設定されるのが一般的です。TOB成立後、スクイーズアウトが株主総会などで決まると整理銘柄に指定され、効力発生の直前に上場廃止となります。それまでは市場で売買できますが、上場廃止後は市場で売る機会がなくなり、スクイーズアウトの代金を待つしかありません。
公正性担保措置を確認する
LBOを伴うMBOでは、経営陣が買い手側に回るため利益相反が生じます。経済産業省の「公正なM&Aの在り方に関する指針」(2019年6月策定)では、独立した特別委員会の設置、第三者による株式価値算定、マジョリティ・オブ・マイノリティ条件(一般株主の過半数の賛同を要件とする)等の公正性担保措置を推奨しています。TOBの開示資料でこれらの措置が講じられているかを確認することが、株主の自衛手段です。

TOB(株式公開買付)とは|30%ルール導入後の制度と株主の選択肢
TOB(株式公開買付)の仕組み・手続きの流れ・プレミアムの目安を解説。2026年5月施行の30%ルールや、友好的・敵対的TOBの違い、株主がとれる3つの選択肢まで網羅。
まとめ
LBO(レバレッジドバイアウト)は、買収対象企業の信用力を活用した資金調達手法であり、PEファンドによる大型バイアウトやMBOの資金調達手段として幅広く利用されています。
仕組み:SPC設立 → LBOローン調達 → 株式取得 → SPC合併の4段階
資金構造:シニアローン(50〜60%)+ メザニン(10〜20%)+ エクイティ(30〜40%)の3層
最大のメリット:少ない自己資金で大規模買収が可能、レバレッジ効果で高リターン
最大のリスク:対象企業が多額の有利子負債を背負い、コベナンツで経営の自由度が制約される
投資家として:保有株がLBOの対象になったら、TOB価格のプレミアム・公正性担保措置・上場廃止スケジュールを確認する










