酒田五法とは|三山・三川・三空・三兵・三法の代表パターンを図解、本間宗久との関係も

酒田五法(さかたごほう)は、ローソク足の並び方から相場の天井・底やトレンドの続きを読む、日本生まれの古典的なチャート分析の手法です。「三山」「三川」「三空」「三兵」「三法」の5つのパターンで構成されます。江戸時代の米相場師・本間宗久が考えたと言い伝えられ、宗久の出身地・酒田の名が付いています。
ただ、宗久本人が考えたことを示す資料は無く、ローソク足そのものも1910年代(明治の終わり〜大正)ごろに形が整ったとみられます。それでも多くの投資家がこれらのパターンを意識しているため、群集心理を映すツールとして現代の株式・FX市場でも広く参照されています。本記事では5つの法の代表的なパターンをチャート図解つきで解説し、実践での使い方と注意点を整理します。
この記事の内容(目次)
酒田五法とは──本間宗久の言い伝えと5つの法の全体像
本間宗久と酒田五法の起源
本間宗久(1724年頃〜1803年、生年は1718年説もある)は、出羽国酒田(現・山形県酒田市)の豪商・本間家の出身です。米相場で大きな富を築き、「出羽の天狗」「相場の神様」と呼ばれたと伝わります。当時の米相場の中心は、1730年に幕府が公認した大坂・堂島の米市場で、世界でも先駆けとなる組織的な先物市場でした。
ただし、宗久が酒田五法を考えたことを示す確かな資料はありません。宗久の相場の心得を伝えるとされる『宗久翁秘録』や、同じ時代の米相場師・牛田権三郎の『三猿金泉秘録』は、相場に臨む心構えを説いた本で、チャートの話は出てきません。日本取引所グループの書籍『日本経済の心臓 証券市場誕生!』は、明治以降に出たチャートの解説書が宗久の名前をタイトルに使ったことが、「酒田五法の元祖」という評判の元になったのだろうとしています。
ローソク足と酒田五法の成り立ちを年代順に並べると、宗久が亡くなってからローソク足が本に現れるまで100年ほど開いています。
1730年:江戸幕府が大坂・堂島の米市場を公認
1755年:牛田権三郎が『三猿金泉秘録』を書いたとされる(相場の心構えを歌にした本)
1803年:本間宗久が亡くなる
1901年:罫線(チャート)の本に「三尊」の呼び名が出てくる
1910年〜1920年代:ローソク足の書き方が本に現れる。1920年には「蝋燭引(ろうそくびき)」の名で紹介され、1924年には図入りで解説された
1933年:数本のローソク足の組み合わせでパターンを読む解説が出てくる
第二次世界大戦後:「酒田五法」の名でまとめられた可能性がある(明治〜昭和初期の本には「酒田五法」が見当たらないため)
出典:日本取引所グループ「堂島米市場」、日本テクニカルアナリスト協会「テクニカル分析の歴史」「チャートの種類」よりKabuGraph作成
つまり酒田五法は、江戸時代の教えがそのまま伝わったものではなく、明治以降に発達したローソク足の読み方が宗久の名とともに語り継がれてきたもの、と考えるのが実態に近そうです。日本テクニカルアナリスト協会も、酒田五法は過去の経験則かもしれないが、今の市場での出現確率に基づいたものではない、と注意しています。
5つの法の全体像
酒田五法は以下の5つのパターンで構成されています。
名称 | 読み | 概要 | シグナル |
|---|---|---|---|
三山 | さんざん | 3つの山を形成し天井を示唆 | 天井→売り |
三川 | さんせん | 3本のローソク足の組み合わせで反転を示唆 | 反転→売り/買い |
三空 | さんくう | 3回連続の窓開けで過熱を示唆 | 逆張り |
三兵 | さんぺい | 同色3本連続でトレンド発生を示唆 | 順張り |
三法 | さんぽう | 調整(休み)を経てトレンド再開を示唆 | トレンド継続 |
三山(さんざん)── 天井の反転パターン
三山は、上昇相場で価格が3回高値をつけても突破できず、天井を形成して下落に転じるパターンです。「3度試しても抜けなかった高値はもう超えない」という経験則に基づきます。
三山の基本形
出現場所:上昇トレンドの天井圏
形状:3つの山が並ぶ。ほぼ同じ高さの場合は「トリプルトップ」とも呼ばれる
売りシグナル:3つの山の谷を結んだネックラインを下に割り込んだとき
三尊天井(ヘッド&ショルダーズ・トップ)
三山の派生形で、中央の山が左右よりも高い形を「三尊天井」と呼びます。仏像の三尊(中央に本尊、左右に脇侍)に見立てた名称です。欧米では「ヘッド&ショルダーズ・トップ」として知られ、最も信頼度が高い反転パターンのひとつとされています。
左肩:最初の高値。出来高が大きいことが多い
頭:最高値。出来高が左肩より減り始めると信頼度が上がる
右肩:左肩とほぼ同じ水準。出来高がさらに減少していれば下落が近い
逆三山(逆三尊・ヘッド&ショルダーズ・ボトム)
三山を上下反転させたパターンが逆三山です。下落相場で3つの谷を形成し、ネックラインを上抜けたときが買いシグナルになります。中央の谷が最も深い場合は「逆三尊」(ヘッド&ショルダーズ・ボトム)と呼ばれ、底値からの反転パターンとして信頼されています。
三川(さんせん)── 3本足の反転シグナル
三川は、大きなローソク足に挟まれた小さな足(コマ・十字線)から相場の転換を読む、3本のローソク足の組み合わせパターンです。売り手と買い手の力が拮抗する瞬間を捉えるため、天井や底を見極める際に使います。
明けの明星(モーニングスター)── 買いシグナル
下落トレンドで出現するパターンです。
大陰線が出現(下落が続いている)
窓を開けてコマ(小さい実体)や十字線が出現(売り買い拮抗=迷い)
窓を開けて大陽線が出現(買い勢力が優勢に転換)
2本目が十字線の場合は「三川明けの十字星」と呼ばれ、より強い買い転換のシグナルとされます。
宵の明星(イブニングスター)── 売りシグナル
明けの明星を上下反転させたパターンで、上昇トレンドの天井で出現します。
大陽線が出現(上昇が続いている)
窓を開けてコマや十字線が出現(買いの勢いが衰え始め)
窓を開けて大陰線が出現(売り勢力が優勢に転換)
その他の三川パターン
パターン名 | 構成 | シグナル |
|---|---|---|
三川宵の十字星 | 大陽線+十字線+大陰線 | 強い売り転換 |
三川明けの十字星 | 大陰線+十字線+大陽線 | 強い買い転換 |
三川上放れ二羽烏 | 大陽線+上放れ陰線+上放れ陰線(前日安値以下で引け) | 売り |
三空(さんくう)── 窓3つの逆張りパターン
三空は、ローソク足の間に3回連続で窓(ギャップ)が開くパターンで、相場の行き過ぎ=過熱を示す逆張りシグナルです。酒田五法のなかで唯一、明確な逆張りの性格を持ちます。
三空踏み上げ(売りシグナル)
上昇相場で4本の陽線が窓を3つ開けながら連続で上昇する形です。「もう上がりすぎ」と見て売りを仕掛けるタイミングとされます。
3つの窓が開いた時点で相場は過熱状態
利益確定売りが出やすく、反落に転じるケースが多い
格言「三空踏み上げには売り向かえ」
三空叩き込み(買いシグナル)
下落相場で4本の陰線が窓を3つ開けながら連続で下落する形です。パニック的な投げ売りの末に出現することが多く、「売られすぎ」の反転サインになります。
3つ目の窓は投げ売り(パニック売り)の最終局面であることが多い
格言「三空叩き込みには買い向かえ」
三兵(さんぺい)── 3本連続のトレンドシグナル
三兵は、同じ色のローソク足が3本連続で階段状に並ぶパターンで、新たなトレンドの発生を示唆します。「兵(足軽)」が一列に行進するように見えることからこの名がつきました。
赤三兵(あかさんぺい)── 買いシグナル
底値圏で陽線が3本連続し、各足の終値が前足の終値より高い形が赤三兵です。上昇トレンドの始まりを告げる強い買いシグナルとされます。
理想形:各足に上ヒゲがほとんどない(売り圧力が弱い)
赤三兵先づまり:3本目に長い上ヒゲが出る形。上値が重くなっており、上昇の勢いが衰え始めた可能性がある
赤三兵思案星:3本目がコマや十字線になる形。迷いが生じており利食いの目安になる
黒三兵(くろさんぺい)── 売りシグナル
天井圏で陰線が3本連続し、各足の終値が前足の終値より低い形が黒三兵です。「三羽烏(さんばがらす)」とも呼ばれ、下落トレンドの始まりを告げる売りシグナルです。
坊主三羽:各陰線に下ヒゲがない形。売り圧力が非常に強く、大きな下落の前兆
同時三羽:各足の始値が前足の終値とほぼ同じ位置から始まる形。隙間なく下がり続けるため、こちらも下落圧力が強い
三法(さんぽう)── 休み明けのトレンド継続
三法は「買い・売り・休み」の3つの局面があるという教えから名づけられ、調整(もみ合い)の後にトレンドが再開するパターンです。「休むも相場」という格言を体現しています。
上げ三法(買いシグナル)
上昇トレンドの途中で出現するパターンです。
大陽線が出現
小さな陰線が2〜3本続く(大陽線の値幅に収まる=はらみ)
再び大陽線が出現し、最初の大陽線の高値を上抜ける
中間の小陰線は一時的な調整(利食い売り)であり、最後の大陽線で高値を更新すれば上昇トレンドの継続が確認されます。押し目買いのタイミングです。
下げ三法(売りシグナル)
下落トレンドの途中で出現する、上げ三法の逆パターンです。
大陰線が出現
小さな陽線が2〜3本続く(大陰線の値幅に収まる=はらみ)
再び大陰線が出現し、最初の大陰線の安値を下抜ける
戻りの勢いが弱く(大陰線の範囲内に収まっている)、最後の大陰線で安値を更新すれば下落トレンドの再開が確認されます。戻り売りのタイミングです。
酒田五法の実践的な使い方と注意点
他のテクニカル指標と組み合わせる
酒田五法は単独で使うより、移動平均線・出来高・RSIなどと組み合わせることで信頼性が高まります。たとえば三尊天井が出現したとき、同時に25日移動平均線を下回っていれば売りシグナルの信頼性が上がります。
酒田五法のパターン | 組み合わせ指標 | 確認のポイント |
|---|---|---|
三山・三尊天井 | 出来高 | 山ごとに出来高が減少していれば信頼度↑ |
三川(明けの明星) | RSI | RSI 30以下の売られすぎ圏で出現すると信頼度↑ |
三空踏み上げ | RSI | RSI 70以上の買われすぎ圏で出現すると信頼度↑ |
赤三兵 | 移動平均線 | 25日移動平均線の上で出現すれば順張りの根拠に |
上げ三法 | 出来高 | ブレイク時に出来高増加なら再開の勢いが強い |
ダマシに注意する
パターンが完成しても、そのとおりに相場が動かないことを「ダマシ」と呼びます。短い時間軸ほど値動きはランダムに近くなることが知られており、HFT(コンピューターによる超高速の売買)の広がりで短期の売買はさらに難しくなっています。短い足のパターンほどダマシが増えやすいと考えておきましょう。ダマシを減らすポイントは以下の通りです。
日足・週足など長めの時間軸で使う:5分足・15分足ではノイズが多く、パターンの信頼性が下がる
出来高を確認する:パターンの出現時に出来高が伴っていなければ、値動きの信頼性は低い
パターンが完成してから動く:三山のネックライン割れや三法のブレイクアウトなど、確定するまで待つ
損切りラインを決めておく:シグナルが出ても逆行する場合に備え、あらかじめ撤退の基準を持つ
酒田五法が効く市場と効きにくい市場
市場 | 有効性 | 理由 |
|---|---|---|
日本株(東証) | ◎ | 取引時間が区切られ窓が開きやすい。出来高も豊富 |
米国株 | ◎ | 現在は取引時間が区切られている(2026年12月から主要取引所で夜間取引が始まり、平日ほぼ23時間取引になる予定)。Candlestick Patternとして広く認知 |
先物・商品 | △〜○ | 日本の罫線(チャート)は明治〜大正の米の先物相場で発達した。ただし日経225先物や商品先物は夜間取引(17:00〜翌6:00)もあり、株式より窓が開きにくい |
FX | △ | 平日ほぼ24時間取引のため、窓が開くのは主に週明け。三空が出にくい |
暗号資産 | △ | 24時間365日取引。ボラティリティが高くダマシが多い。ただし日足・週足でトレンドが明確になった際の三兵・三法は大きな値幅を取りやすい |
酒田五法 パターン早見表
この記事で解説した代表的なパターンを一覧にまとめます。酒田五法には、三川の「両はらみ」「両つつみ」など、このほかにも多くの型があります。チャートを見ながらの確認用としてお使いください。
分類 | パターン名 | 出現場所 | シグナル | 欧米の呼称 |
|---|---|---|---|---|
三山 | 三山(トリプルトップ) | 天井圏 | 売り | Triple Top |
三尊天井 | 天井圏 | 売り | Head & Shoulders Top | |
逆三山(トリプルボトム)※ | 底値圏 | 買い | Triple Bottom | |
逆三尊※ | 底値圏 | 買い | Head & Shoulders Bottom | |
三川 | 明けの明星 | 底値圏 | 買い | Morning Star |
宵の明星 | 天井圏 | 売り | Evening Star | |
明けの十字星 | 底値圏 | 強い買い | Morning Doji Star | |
宵の十字星 | 天井圏 | 強い売り | Evening Doji Star | |
三川上放れ二羽烏 | 天井圏 | 売り | Upside Gap Two Crows | |
三空 | 三空踏み上げ | 上昇過熱 | 売り(逆張り) | Three Gaps Up |
三空叩き込み | 下落過熱 | 買い(逆張り) | Three Gaps Down | |
三兵 | 赤三兵 | 底値圏 | 買い | Three White Soldiers |
赤三兵先づまり | 上昇中 | 上昇鈍化 | Advance Block | |
赤三兵思案星 | 上昇中 | 上昇鈍化(利食いの目安) | Stalled Pattern | |
黒三兵(三羽烏) | 天井圏 | 売り | Three Black Crows | |
坊主三羽 | 天井圏 | 強い売り | — | |
同時三羽 | 天井圏 | 強い売り | Identical Three Crows | |
三法 | 上げ三法 | 上昇中の調整 | 買い(継続) | Rising Three Methods |
下げ三法 | 下落中の戻り | 売り(継続) | Falling Three Methods |
まとめ
酒田五法は、日本で生まれたローソク足の読み方を5つの型に整理した古典的な手法で、その本質は「群集心理の読み取り」にあります。
法 | ひとことまとめ |
|---|---|
三山 | 3度の高値トライで抜けなければ天井 |
三川 | 大きい足→小さい足→逆の大きい足で転換 |
三空 | 窓3連続で過熱 → 逆張りで向かえ |
三兵 | 同色3本連続でトレンドの始まり |
三法 | 調整で休み、ブレイクでトレンド再開 |
酒田五法は「これだけで勝てる必勝法」ではありませんが、チャートの向こう側にいる投資家たちの心理を読み解くフレームワークとして、現代でも十分に通用します。移動平均線やRSIなどの指標と組み合わせ、出来高や時間軸にも注意を払うことで、より確度の高い売買判断につなげてください。










