KabuGraph

MOIC(投下資本倍率)とは|IRRとの違い・Gross/Netの計算例で理解する

Cover Photo

MOIC(Multiple on Invested Capital/投下資本倍率)は、投資した元本が最終的に何倍になったかを示す指標です。1億円を投じて3億円で回収できればMOIC 3.0x——つまり「3倍になった」とひと目でわかります。プライベート・エクイティ(PE)やベンチャーキャピタル(VC)など未上場投資の世界で最も基本的なパフォーマンス指標のひとつであり、ファンドの成績表やLP(出資者)向けレポートには必ず登場します。

本記事ではMOICの計算式から、Gross(グロス)とNet(ネット)の違い、IRR(内部収益率)との使い分け、そしてDPI・TVPIなど関連指標との関係までを体系的に解説します。

MOICの定義と計算式

MOICは「投資で得た総価値を、投じた元本で割る」というシンプルな計算で求められます。

各項目の意味は以下のとおりです(定義は機関投資家の業界団体ILPAの報告様式による)。

  • 実現価値(Realized Value):売却(エグジット)や配当などで実際に回収済みのキャッシュ

  • 未実現価値(Unrealized Value):まだ保有中のポートフォリオ企業の現在評価額(NAV)

  • 投下資本(Invested Capital):ポートフォリオ企業への投資に実際に充てられた金額。LPがキャピタルコールで拠出した払込資本(Paid-In Capital)から管理報酬やファンド経費を除いた純粋な投資元本を指す

計算例

あるPEファンドが5社に合計100億円を投資した場合を考えます。

項目

金額

投下資本

100億円

実現価値(売却済み3社)

150億円

未実現価値(保有中2社)

80億円

MOIC

2.3x(=230億円÷100億円)

MOIC 1.0xが損益分岐点です。1.0xを上回れば利益、下回れば損失を意味します。

Gross MOICとNet MOICの違い

MOICにはGross(グロス)MOICとNet(ネット)MOICの2種類があり、費用控除前か後かで数値が大きく変わります。Net MOICは運用者が受け取る管理報酬と成功報酬を差し引いた値です(EQT ThinQ)。ファンドのパフォーマンスを見るとき、どちらの数字かを確認することが重要です。

Gross MOIC

Net MOIC

管理報酬(Management Fee)

控除しない

控除する

成功報酬(Carried Interest)

控除しない

控除する

ファンド経費

控除しない

控除する

意味

運用チームの投資能力

LPが実際に受け取るリターン

たとえば、Gross MOIC 3.0xのファンドでも、管理報酬と成功報酬を差し引くとNet MOIC 2.3x程度になることは珍しくありません(5 Levels)。PEファンドでは通常、管理報酬が年2%前後、成功報酬(キャリードインタレスト)が利益の20%程度かかるため、GrossとNetの差は無視できません。

MOICとIRRの違い

PEやVCのパフォーマンス指標としてMOICと並んで頻出するのがIRR(Internal Rate of Return/内部収益率)です。両者は補完関係にあり、片方だけでは投資の全体像をつかめません。

MOIC

IRR

測るもの

リターンの規模(何倍か)

リターンの速度(年率何%か)

時間の考慮

考慮しない

考慮する(年率換算)

計算の簡便さ

割り算だけ

反復計算が必要

操作リスク

低い

キャピタルコールのタイミングで操作可能

主な用途

絶対リターンの評価

資本効率・他投資との比較

同じMOICでもIRRは大きく異なる

MOICが時間を無視するという特徴は、元本を期初に一括で投じ、期末に一括で回収する単純な例で見るとよくわかります(3年・5年の例はWall Street Prepを参考)。

投資期間

MOIC

IRR(概算)

3年

2.0x

約26%

5年

2.0x

約15%

7年

2.0x

約10%

期初に一括投資・期末に一括回収(途中のキャッシュフローなし)と仮定したKabuGraph算出。IRR=MOIC^(1÷年数)−1

同じMOIC 2.0xでも、3年で達成すればIRR約26%、7年かかればIRR約10%と、資本効率の評価がまったく変わります。これが「MOICはリターンの規模、IRRはリターンの速度」と言われる理由です。

MOICの目安とベンチマーク

「良いMOICとはどのくらいか」は、投資戦略とヴィンテージ(組成年)によって異なります。米国のPEファンド(バイアウト・グロースなど)の、LPの受取ベースのNet TVPIの分布から区分すると、おおよその目安は以下のとおりです。

Net MOIC・TVPI

評価の目安

概算Net IRR(5年)

1.0x未満

元本割れ(損失)

—

1.0x〜1.5x

中央値を下回ることが多い

0%〜8%

1.5x〜2.0x

中央値前後

8%〜15%

2.0x以上

トップクォータイル級

15%以上

出典:Cambridge Associates「US Private Equity (Legacy Definition) Index and Selected Benchmark Statistics」(2019年12月末時点)よりKabuGraph作成。区分は1995〜2010年ヴィンテージのNet TVPIの中央値・上位25%の下限をもとにした目安。概算Net IRRは5年間の一括投資・一括回収を仮定したKabuGraph算出

ただし、トップクォータイル(上位25%)の線は1本ではありません。ヴィンテージと戦略によって水準が動きます。

  • PE(1995〜2010年ヴィンテージ):上位25%の下限は1.73〜2.53xで、中央は2.1x前後。2.5xを超えたのは2009年だけで、中央値は1.35〜2.10x(2019年12月末時点)

  • PE(2018年以降のバイアウト):資金加重(プール)ベースのNet TVPIは1.3〜1.6x程度(2025年末時点、Waveup)。大半が未実現の評価額で、今後も動く

  • VC:上位25%はNet MOIC 2.5x以上、中央値は1.5〜2.0xが目安(5 Levels)。成功案件が10x〜100xになりうる一方、大半の案件が1.0x以下で終わるため、ファンド間の差がPEより大きい

出典:Cambridge Associates「US Private Equity (Legacy Definition) Index and Selected Benchmark Statistics」(2019年12月末時点)・Waveup・5 LevelsよりKabuGraph作成

PEの成績をVCの線で測ると厳しすぎ、2018年以降の若いファンドを成熟したヴィンテージの線で測るのも早すぎます。比べる相手は、同じ戦略・同じヴィンテージのファンドの分布です。

DPI・TVPIとの関係

MOICに関連するファンドのパフォーマンス指標として、DPI(Distributions to Paid-In)とTVPI(Total Value to Paid-In)があります。これらを組み合わせることで、ファンドの「実力」をより正確に把握できます。

指標

計算式

特徴

DPI

累計分配額÷払込資本

実際にキャッシュで戻った分だけを計上

RVPI

残存ポートフォリオ評価額÷払込資本

まだ保有中の未実現価値

TVPI

DPI+RVPI

分配済み+未実現を合算

Gross MOICは通常、TVPIより高くなります。分母が違ううえに、分子もTVPIは成功報酬を引いた後の値だからです(ILPA「Performance Template Definitions」、2025年1月)。

  • TVPI(Net):分子はLPの受取額(分配済み+保有資産の評価額のLP持分)で、成功報酬の控除後。分母は払込資本(Paid-In Capital)——LPがキャピタルコールで拠出した総額で、管理報酬やファンド経費に充てた分も含む

  • Gross MOIC:分子は費用・成功報酬を控除する前の価値。分母は投下資本(Invested Capital)——ポートフォリオ企業への投資に充てた元本だけ

DPIが重視される理由

近年のLP(出資者)の間では、MOICやTVPIよりもDPIを重視する傾向が強まっています。MOICやTVPIには未実現価値が含まれますが、未実現価値はGPの評価(時価評価)に依存するため、楽観的な評価が入りやすいという問題があります。DPIは実際に手元に戻ったキャッシュだけを数えるため、パフォーマンスの「硬さ」を測る指標として信頼されています(ハイディールパートナーズ)。

MOICの限界と注意点

MOICは直感的でわかりやすい指標ですが、以下の限界を理解したうえで使う必要があります。

  1. 時間を考慮しない:3年で3.0xと10年で3.0xが同じ評価になってしまう。IRRと併用することで補完する

  2. 未実現価値はGPの裁量に左右される:ファンド運用中のMOICには未実現価値が含まれるが、その評価はGPの判断に依存する。ファンドが清算されるまで確定しない

  3. 資本構成の影響を反映しない:LBOではレバレッジ(借入)を使うため、エクイティ出資額が小さくなりMOICが高く見えやすい。MOIC 3.0xでも、借入込みの投資総額で見ると違った景色になる

  4. 追加投資を適切に反映しにくい:フォローオン投資(追加出資)がある場合、分母にどこまで含めるかで数字が変わる

これらの限界があるため、実務ではMOIC・IRR・DPIの3指標をセットで確認するのがファンド評価の基本です。単一の指標に頼らないことが、正しいパフォーマンス評価の鍵になります。

まとめ

MOICはPE・VCの世界でリターンの「規模」を端的に伝える最もシンプルな指標です。最後に要点を整理します。

  • 計算式:MOIC =(実現価値+未実現価値)÷ 投下資本

  • Gross vs Net:費用控除前(Gross)と控除後(Net)で大きく異なる。LPが見るべきはNet MOIC

  • IRRとの補完関係:MOICは「何倍」、IRRは「年率何%」。MOICだけでは時間価値がわからない

  • DPIで硬さを確認:実際に分配されたキャッシュベースのDPIと合わせて見ることで、評価の信頼性が上がる

  • ベンチマーク:米国PEではNet MOIC(TVPI)2.0x前後からがトップクォータイル級で、線はヴィンテージにより1.7〜2.5x程度に散らばる。VCの目安(上位25%が2.5x以上)とは分けて考え、同じヴィンテージ・同じ戦略のファンドと比較するのが原則

ファンドの成績表を読むときは、まずMOICで大まかなリターン水準をつかみ、次にIRRで時間効率を確認し、さらにDPIで「実際にキャッシュが返ってきたか」を見る——この3段階で投資パフォーマンスの全体像が浮かび上がります。

コラム著者・編集者

K

KabuGraph編集部

KabuGraph編集部は、投資情報の発信と株式分析ツールの開発に携わるチームです。日本株・米国株の事業分析から、投資に役立つ情報をわかりやすくお届けします。

関連記事